アンケート報告

本報告は、「国際人材フェア・にいがた2011」に参加した企業と留学生に対し、企業の採用活動と学生の就職活動に関するアンケート調査の結果をまとめたものである。

企業アンケートは参加企業22社に対して実施し、回収数は21社、回収率は95.5%であった。学生アンケートは参加留学生59名に対して実施し、回収数は42名、回収率は71.2%であった。

1 「国際人材フェア・にいがた」について

1.1 人材フェアの開催時期

「人材フェアの開催に適当と思う時期」の設問に対し、企業の回答では、「5月が適当」と答えた企業は10社で、全体の48%を占めた。理由は「ちょうど学生が就職活動を開始する時期」、「3月、4月は(日本人学生の)採用活動がピークのため」などが挙げられており、留学生の就職時期に合わせて採用スケジュールを組み立てることや、日本人学生と別枠で留学生採用を検討する企業の動きが見られた。また一部の県内企業から「日本人学生と同様なスケジュールで採用を行うため、開催時期を2月か3月に繰り上げしてほしい」との意見もあった。

学生の回答では、2月か3月は「春休みで帰国する可能性がある」として、「5月が適当」と答えた留学生が最も多かった(23名、55%)。ほかに「年一回ではなく、数回開催してほしい」との意見があった。上記のアンケート結果から、当面5月開催が望ましいと考えられる。

1.2 人材フェアに関する情報収集

「本日のフェアを何で知りましたか(複数可)」との設問に対し、企業の回答では、10社(48%)が「環日本海経済研究所(ERINA)からの直接案内」と回答した。つぎに「新潟経済同友会」(4社、19%)、「商工会議所・商工会」(3社、14%)、「にいがた産業創造機構」(3社、14%)、「新潟労働局(ハローワーク)」(2社、10%)であった。ジェトロ新潟や新潟県経営者協会などを含む「その他」の欄では4社(19%)が回答した。今回の人材フェアは主催、共催、後援、協力各団体の募集努力により22社の参加を得たと言える。

学生の回答では、「学校の就職課から聞いた」と答えた学生は22名、全体の52%を占めた。「学校の教職員から聞いた」と答えた学生は11名(同26%)、両者を合わせると、78%(33名)の学生が学校側から情報を収集したことになる。人材フェアの学生募集において、学校側の協力は最も重要である。

1.3 企業と留学生の面談状況

図1で示すように、面談した学生の数は企業によって大きな開きがある。全体の24%(5社)の企業は26~30名の学生と面談したが、全体の29%(6社)の企業は1~5名の学生としか面談できなかった。その結果図1はVの字の形となった。内訳をみると、県内で広く知られている企業や勤務内容が貿易・通訳・営業など文系に近い企業は多くの学生と面談した。募集内容は技術系で、語学・資格にハードルを設けた企業が面談した学生は少なかった。

学生からみると、22社が参加する就職相談会に、3時間の間に面談できる企業は多くて6社前後である。図2で分かるように、4社と面談した学生の割合は全体の31%(13名)を占めて最も高く、6社またはそれ以下と面談した学生が全体の83%(35名)を占めた。図1と違って、図2は逆V字の形となった。容易に想像できるように、待ち時間を含めて1時間に2社との面談が限界であろう。学生は事前にインターネットで企業情報を調べ、自分の希望に沿った企業とだけ面談していることも考えられる。

以上の状況を分析すると、企業にとって3時間の中でどのようにして多くの学生と面談できるかがは重要である。留学生の募集に慣れない県内企業は多く、募集要項の内容や表現の方法など工夫する余地が残っているように思われる。例えばシステムエンジニア(SE)を募集する企業は、文系出身の学生も受け付けるのであれば、そのことを明示する必要がある。そうでなければ文系学生が集まらない。また、仕事上英語を使わなければならない場合は別であるが、英語能力に高いハードルを設けた企業に学生が集まりにくい。多くの留学生にとって日本語の他に英語を習得することは簡単ではない。企業は人材フェアの参加を早めに申し込めば、ホームページにおける掲載期間は長くなるため、企業情報を収集する学生が増えるであろう。

図1 企業が面談した留学生人数と全体に占める割合
fg1
出所:アンケートの結果により筆者作成

図2 留学生が面談した企業数と全体に占める割合
fg2
出所:アンケートの結果により筆者作成

1.4 企業と留学生のマッチング状況

フェアで「すぐにでも就職したい会社」が見つかったと答えた学生は22名(52%)、「今後会社情報を収集し、面接等を重ねて就職したい会社」が見つかったと答えた学生は18名(43%)で、両者を合わせると全体の95%に当たる40名の学生は今回の人材フェアで就職希望の会社が見つかったことになる。採用される可能性について、「可能性が高い」と答えた学生が2名(5%)にとどまったが、「今後試験・面接を経て就職できる可能性がある」と答えた学生が28名(67%)に上った。

企業側からみれば、「すぐにでも採用したい留学生がいた」と答えた企業は2社(10%)にとどまったが、「今後、試験や面接を重ねて検討したい留学生がいた」と答えた企業は15社(71%)に上った。両者を合わせると、全体の81%に相当する17社が人材フェアで採用可能な学生を見つけたことになる。ちなみに採用したい留学生の国籍について、「中国」と答えた企業は18社で、全体の86%を占めた。

1.5 各プログラムの評価

留学生OGによる就職活動体験談について、33名(79%)の学生は「参考になった」と答えた。入国管理局職員による査証変更に関する説明について33名(79%)の学生が同様な回答を行った。総合評価として39名(93%)の学生がフェアに参加して「有意義だった」と答えた。

相談コーナー(新潟県行政書士会在留資格の変更手続き相談コーナー、新潟労働局外国人雇用管理アドバイザー)の必要性について、「必要」と答えた学生は23名(55%)、企業は同9社(43%)であった。「どちらとも言えない」と答えた学生が12名(29%)、企業が同11社(52%)となった。今後相談コーナーの設置の目的や利用方法について、企業と学生にしっかり伝える必要がある。

2 県内企業と留学生の採用・就職活動について

2.1 留学生の就職活動の開始時期

留学生の就職活動の開始時期は日本人学生と比べて大幅に遅れている。日本人学生の場合、学部3年生(または大学院の修士1年生)の秋頃に始めるのが一般的であるが、留学生の場合はそれより遅れて始める学生が多い。アンケートでは(図3)全体の64%に相当する27名の留学生は翌年3~4月以降に始めたと回答した。その理由について以下のことが考えられる。人材フェアに参加した留学生の半数以上は大学院生で、母国で学部を卒業して来日した学生が多かった。4月に大学院の修士1年生として入学したとして、その年の秋頃から就職活動を始めることに心理的に抵抗があるように思われる。日本の大学院に入学して半年間あまりでは、就職活動より勉強の意欲が強い時期であろう。仮に面接で「日本の大学で何を勉強したか」と聞かれたら答えられないだろうし、短い半年間の間に何か勉強できたと自信を持って言えないであろう。就職活動の開始時間の遅れは、日本の就職活動の特徴(開始時期が早い)にも関連しているが、留学生自身も意識を変える必要があるように思われる。

図3 留学生の就職活動の開始時期と全体に占める割合
fg3
出所:アンケートの結果により筆者作成

就職活動の開始時期が大幅に遅れているにもかかわらず、自分自身が行っている就職活動について日本人学生と「全く同じ」または「同じ部分が多い」と答えた留学生は28名、全体の66%を占めた(図4)。日本人学生がどのように就職活動を行い、その開始時期や方法などについて詳しく調べる必要があるように思われる。日本で就職すると決めたら、日本のシステムで就職活動を行わなければならない。この点について、大学や留学生支援機関は留学生にしっかりと説明し、日本で就職するためには早めに準備しなければならないことを伝えるべきである。留学生の就職支援について、新潟のみならず日本各地の大学や支援機関は懸命に行っている。アンケートの結果で示すように、留学生の就職意識を高め、早い段階から就職活動が開始できるように支援と指導していく必要がある。

図4 日本人学生と同じような就職活動を行っているか
fg4
出所:アンケートの結果により筆者作成

2.2 学生と企業がお互いに重視するもの

金融危機の影響で企業の破綻または事業縮小が懸念される中、留学生は仕事の安定性を重視する動きが見られた。「就職したい会社において最も重視するもの」について、「安定性」と答えた学生22名(56%)で最も多かった。つぎに「給料・社宅・福祉関係」と答えた学生は21名(53%)、「専門・特長を生かす可能性」は同じく21名(53%)であった。「会社の知名度」と答えた学生が5名(13%)にとどまり、留学生にとって知名度より実際の状況を重視していることが分かる。

企業からみれば、採用したい留学生において最も重視するものは「仕事に対する熱意」で、全体の76%に相当する16社が回答した。「本国での実務経験」を最も重視すると答えた企業は1社のみで、中国などの採用基準と違って、勤務経験より人物重視の日本型採用の特徴が確認された。ほかに「日本語等の語学力」と答えた企業は14社(67%)、「適応力・協調性」は同11社(52%)となった。

2.3 企業の募集方法と採用状況

留学生の募集に「国際人材フェア・にいがた」を利用していると答えた県内企業は9社、全体の43%を占めて最も高かった。2005年より連続6年間開催している人材フェアは、県内企業にとって留学生を募集するチャンネルとして徐々に定着していると言えよう。ほかに「大学を通じた求人」が8社(38%)、「知人、会社関係者の紹介」が4社(19%)であった。採用パターンでは86%(18社)の企業は「正社員として採用する」または「会社の業績や勤務状況等により正社員に昇格させる」と回答した。

実際には、留学生採用に対して慎重な態度を取っている県内企業が多いことが分かった。「業務の必要に応じて都度採用を行うが、慎重に採用する」と答えた企業は全体の48%に相当する10社に達した。「業務の必要に応じて都度採用を行うが、積極的に採用する」と答えた企業は3社(14%)のみ、一部の大企業や貿易企業(6社、29%)は「日本人学生と同様に定期採用を行う」と答えた。採用実績について、「不定期だが採用している」と答えた企業は11社の52%、「採用したことはない」と答えた企業は9社(43%)であった。「定期的に採用している」と答えた企業は1社のみであった。上記の結果から、日本人学生と同じように人材蓄積の観点から留学生を定期的に採用している都市圏の大手企業と違って、業務の必要に応じてその都度留学生を採用し、さらに採用した人が退職しなければ新規採用を行わない県内企業が多いことが分かった。この特徴は新潟のみならず、他の地方の企業に共通しているように思われる。ちなみに留学生を採用した企業(14社)の中で、中国人を採用した企業は9社で最も多かった。

2.4 就職をめぐる留学生の希望と不安

多くの留学生が地元新潟で働きたいと希望している。「就職したい、就職可能だと思う企業」の質問(複数選択)に対して、「新潟の大企業」と答えた学生は21名(50%)、「新潟の中堅企業」と答えた学生が14名(33%)であった。このような希望から、新潟の企業・行政・経済団体は留学生の県内就職支援をより一層行うべきであろう。ほかに「東京等大都市圏の大企業」と答えた学生が15名(36%)、「東京等大都市圏の中堅企業」は4名(10%)であった。

希望する採用パターンについて、30名(71%)の学生が「正社員として採用されたい」と答えた。「契約社員として採用されても良いが、将来正社員に昇格したい」と答えた学生が8名(19%)であった。両者を合わせると、全体の90%(38名)に当たる学生が正社員または正社員に昇格できるような形で採用されたいと希望した。

留学生の就職方法について、学内の就職合同説明に参加すると答えた学生が19名(45%)、新潟県内の合同企業説明会に参加すると答えた学生が18名(43%)と、就職合同説明会の参加の割合が高かった。つぎに「メール・電話・手紙による企業エントリー」と答えた学生が12名(29%)、「OB・OG訪問」を行った学生はわずか2名(5%)であった。

就職活動の不安な点について、21名(50%)の学生が「留学生向けの就職説明会の開催が少ない」と指摘した。国際人材フェア・にいがたの開催に意味があることが確認できる。ほかに「自分にとって有効な求人情報が不足している」が18名(43%)、「就職活動に多大な費用がかかる」が13名(36%)、「就職活動の方法が分からない」が13名(31%)、「就職活動・勉強・アルバイト同時進行のため、時間が取れない」が11名(26%)などであった。