土地の歴史表す壁画

ワルシャワの街を歩いていると、不思議な壁画に目が留まった。爆弾が落ちる戦場で銃を抱えて戦う兵士の姿が描かれている=写真=。目を引いたのは、兵士を操る糸と、ヘルメットと軍服にあるマークだ。マークは、ドルとユーロの通貨記号だ。「ユーロ」マークは、ソ連国旗にある「鎌と槌(つち)」にも見える。兵士は人間性を奪われたマリオネットとして、「金」のために戦争に駆り出されたのだろうか。その糸は大国が操っているようだ。

この壁画は、世界的に有名なイタリア人覆面アーティストのブルー(Blu)が描いたものだという。彼の壁画には、しばしば並外れて大きな人の姿が描かれ、そこに時折風刺的な意味合いが込められる。2010年にワルシャワの芸術祭に招待された彼は、大通りに面したマンションの壁一面にこの壁画を描いた。

ポーランドの歴史は大国に翻弄(ほんろう)され悲劇に満ちている。過去の経緯から、反ロ感情を強め、ロシアを最も嫌う国の一つとなった。同時に、欧州連合の加盟国とはいえ、歴史的な背景の下で、ドイツとの関係にも時折緊張が走る。ブルーは、この場所がもつ歴史的な文脈と現在の状況を踏まえて、グローバル資本主義化を推し進める欧州や米国という大国の利害がロシアに代わってポーランドを脅かす、そんなイメージを抱いたのかもしれない。

今、ブルーが新たに壁画を描くとすれば、そこには人民元も描かれるかもしれない。もし今、彼が、米・中・ロという世界大国に向き合う日本や朝鮮半島を描くとすれば、何を描くのだろうか。

 

新潟日報ERINAレター掲載