命守る仕組み 橋渡し

ウラジオストク市に旧知のロシア人がいる。ロシア経済が好調だった頃に起業して、かなり羽振りがよかった時期もある。ところが、その後に生活が暗転した。まず奥様が10年前にくも膜下出血で倒れ、その5年後に本人が白血病に襲われた。いずれの場合も現地での治療は困難で、韓国で手術や骨髄移植を受けた。幸いにして、二人とも一命をとりとめ、現在はほぼ平常に近い生活を送っている。

問題は多額の費用である。治療費に加え、渡航費や滞在費などを自己負担したことで家計はひっ迫し、今はつつましやかな暮らしぶりだ。好景気時代の蓄財がなければ、きちんとした治療を受けることもできずに、天に旅立ってしまったかもしれない。

翻って日本では国民皆保険制度がしっかり機能している。高額医療費制度もあって、限られた自己負担で高度な治療を受けることができる。最近、日ロ間では医療協力が進み、例えばハバロフスク市には日本の技術を導入した健診センター=写真=もある。しかし、医療技術の高度化だけでは救えない命があるのも事実だ。ロシアでも多くの市民が十分な医療サービスを受けられるような仕組みづくりに、日ロ双方の幅広い関係者が知恵を出し合って協力する意義は大きい。ERINAは、新潟大学などと共に「日露医学医療交流コンソーシアムにいがた」の一員として、両国間の橋渡しに努めている。

現在、新型コロナウィルスが猛威を振るっている。地球上どこでも、助かるはずの命がきちんと助かる世界が実現することを望む。

新潟日報ERINAレター掲載