元大統領の邸宅 広大
今年の2月にベラルーシ出張の帰路、ウクライナの首都、キエフを訪れた。2014年の政変で大統領の座を追われたヤヌコビッチ元大統領の邸宅が「メスィヒリャー」という国立公園になり、一般公開されていると聞いたので行ってみた。
入場料600円ほどの邸宅は巨大で、キエフ市内を流れるドニエプル川をせき止めて作ったキエフ水力発電所のダム湖を借景とする雄大な風景だった。
元大統領のぜいたくざんまいぶりを象徴するといわれていた通り、広大だった。ゴルフコースまで含めると100㌶を超え、歩いていると暖冬とは言え、寒くて仕方がなかった。道理で誰もいないわけだ。
庭には池と噴水があり、毛づやのよいカモが何羽も庭を闊歩(かっぽ)していた=写真=。冬で人がめったに来ないせいなのか、ここに来る人はカモを襲ったりしないせいなのか、私が近づいてもカモは微妙な距離を保ちながらも、急いで逃げたりしなかった。
ウクライナの人々は日本人同様、いやそれ以上に鳥には優しいのだろう。かも鍋のことを想像している自分が恥ずかしかった。
その夜、モスクワに向かう夜行列車で国境を越えた。その車両で唯一のアジア人である私は、ウクライナ側でもロシア側でも官憲の関心の的となった。彼らの関心は、私のパスポートの中国入国スタンプの日付(1月4日)と体温だった。同室のウクライナ人はせきやくしゃみをしていたが、検査はされなかった。まだ東欧で新型コロナウイルスの感染が拡大する前の牧歌的な日々だった。今でもカモを見ると、キエフでのあの日を思い出す。
ERINA(環日本海経済研究所) 調査研究部主任研究員 三村光弘
新潟日報ERINAレター2020年10月19日掲載