ウラジオ「遠い街」に
「祭り」の後のウラジオストクを訪れた。9月上旬のAPEC首脳会議という大イベントを終え、心なしか街の雰囲気が垢ぬけたようだ。少しそういう思い込みに惑わされたのかもしれないが、現実に新しいインフラが一気に出現したことは確かだ。空港に降りた訪問客の目には、新しい旅客ターミナルから始まり、空港と市内を結ぶ空港連絡鉄道、高規格道路、巨大橋梁など、以前とは違う景色が次々と飛び込んでくる。
ところで、現在、新潟~ウラジオストクの直行便は飛んでいない。今回はソウル経由で訪れたが、待ち時間が6時間もあって、ホテルに着いたのは現地時間の夜11時過ぎだった。わずか100分のフライトで結ばれていた時と比べて、ずいぶんと遠い街になってしまった。これまでは、現地でモスクワからの出張者と出会うと「遠くから大変ですね」とねぎらっていたのだが、今回は同じ言葉を口にするのに引け目を感じた。
他方、モスクワ~ウラジオストク間の経済的、心理的距離は、ここ数年でぐっと近づいたようだ。地元の航空会社は、モスクワに本社がある国営アエロフロートの傘下に入った。空港連絡列車「アエロエクスプレス」〓写真〓の電車はモスクワのそれと同系の車両だ。運行している鉄道会社が同じなのだ。幅広い分野で、モスクワ資本の極東進出の足音が聞こえる。
それにつれて、出張者の往来も多くなったはずだ。いつの間にか、市内のレストランでチップを払う習慣が広がった。対岸の街、ウラジオストクが西に向かって遠ざかりつつあるように感じる。
ERINA(環日本海経済研究所) 新井洋史
新潟日報ERINAレター2012年10月22日掲載