「社会主義市場経済」の静かな転機

|中国

中国の経済改革は、不断の制度選択のプロセスとみることができる。さまざまな新しい制度が、ある場合には現場の自発的な決断、ある場合には中央のトップダウン的な決定により導入されたが、最終的に選択の決定基準になるのは、制度の効率性-言いかえれば、その制度が経済発展を促進しうるか否かという一点にかかっていた。鄧小平のもっとも影響力あるスローガン-「発展こそが基本原則」(発展才是硬道理)は、まさに中国の経済改革を貫徹する原理でありつづけてきたのだ。

これによって中国はこの20年ほどのあいだに、社会全体に及ぶ劇的な制度変革を、おおむね成功裡に成し遂げてきた。そのなかでいわば聖域として残されてきたのは、「社会主義」の根幹にかかわる制度-資本の国家所有制度である。だが最近の改革をめぐる動きは、今やこの聖域も、効率性基準による制度選択の波に洗われつつあることを示している。

国有制の改革が加速する最初のきっかけになったのは、1997年の第15回党大会で「国有経済の戦略的調整」(=非戦略部門からの退出と戦略部門への集中)の方針が確立したことである。この前後から、それまで個別の地方で進められていた中小国有企業の民営化が、全国規模で展開するようになった。国有企業の企業数は、97年以降急速に減少している。

こうした動きをいっそう勢いづかせたのは、昨1999年9月の党第15期四中全会決定である。この決定は97年党大会の「戦略的調整」方針を再確認し、その推進を強調した。これを受けて北京、上海、天津など主要大都市も、中小企業や一般業種から国有資本を引き上げ(つまり民営化を進め)、少数の戦略産業への集中をはかる方針を表明した。いまや中小国有企業の全面民営化は、時間の問題となりつつある。さらに注目されるのは、大企業についても、国有資本の売却によって資本の多元化を進める方針が決定されたことだ。99年中に上場企業10社が国有株売却のテスト・ケースとして選定され、うち2社で実施に移された。最近も財政部長が、国有資本売却によって社会保障基金の不足を補う措置を検討中であることを表明している。経営の悪化した上場国有企業が民間企業に買収されるケースも珍しくない。今後は大企業の漸進的な民営化が、着実に進んでいくと予想される。

国有制の改革本格化の背後にあるのは、これまでの高度成長を支えてきたモメンタムが、しだいに失われつつあるという認識である。昨1999年の投資の伸び率は実質5.2%と、天安門事件直後の90年を除けば最低の水準となった。成長率は依然として7~8%の高い水準を確保しているが、うち2ポイント前後は財政投資に依存している。税収基盤の弱い中国が、現在の規模の内需拡大策を中長期的に継続していくことは現実的ではない。こうしたなかで一定水準の成長を維持して雇用情勢の悪化を防ぐためには、制度改革の最後の「宿題」である資本の国家所有に手をつけるしか、選択肢は残されていないのだ。

「社会主義市場経済」というコンセプトは、現行の政治的枠組みに手をつけずに最大限の市場経済化を進めることを可能にするという意味で、中国経済改革のすぐれたイノベーションだった。だがそれは結局、限りなき効率化を求める市場経済の圧力そのものによって、今や重大な転機を迎えようとしているのである。