現状脱出のために ―人々の意欲に報酬で「点火」を―

|朝鮮半島

友人からのクリスマスカードと一緒に、米国テキサス州韓国人教会信者にあてたニュースレターが送られてきた。そのなかに、宣教師による「北朝鮮見聞記」が記されている。私自身、北の厳しい状況は概ね分かっているつもりでいたが、この見聞記には読んでびっくりさせられた。北の惨状は私の想像をはるかに超えている。今回は、この「見聞記」から数箇所を引用させていただく。

「おまえだけでも飢え死にせずに生きのびてくれ・・・・・・」

これは、若い娘を中国側に売り渡すことになった母の別れの言葉である。

例えば、北朝鮮では、牛はいっさい食用として利用できず、軍需物資輸送のために軍で統制されている。牛の労役年数は16年で、これが経過した後、軍の許可を得た上で処分される。

「いま平壌市をのぞく地方都市では、治安を保つべき軍人、教育者、安全員は、自分たちが生きのびるため、治安に心を砕く余裕がない。軍人、党幹部をのぞいた北の人口の90%-1,700万人は、表向きのみ職のある失業者である・・・・・・北の交通事情は話にならない。質の悪い石炭燃料と老朽化した機関車、鉄道のため、時速10キロくらいの速さが精一杯・・・・・・豆満江流域から清津まで7日かかる・・・・・・」

「北の庶民にとって、最高の交通手段は『自転車』である。中国製の自転車は貴重品で、登録番号と通行許可、そして運転免許をとらねばならない。また、年に一定の『運行費』も納めねばならない・・・・・・」

食料や交通手段ばかりでなく、衣類のための生地も絶対的に不足している。石油化学による合成繊維産業がまったく芽生えていない。

これには悲しい失敗談がある。

金日成は海外の同胞碩学・科学者を大歓迎した。その一人は、京都大学でビニロンを1938年に発見した李升基博士である。李博士は国内で採れる石灰石を焼いてカーバイト、そしてビニロン繊維をつくった。金日成は大いによろこび、これこそ「主体思想」の科学的応用であるとし、李博士を「国民的英雄」としてもちあげた。

ところが当時のビニロンは衣料用の繊維としては水に弱く、保温性が低い。熱帯地方の服としては通じるものの、北の風土にはあわない。また、カーバイトからビニロンをつくるには大量の電力が必要で、採算が合わないのが最大の弱点であった。しかし、かわいそうなことに、北では金日成の「主体思想」の産物であるビニロンの、その非経済性に異議を唱えることができない。

北朝鮮の経済復興を、どう「点火」させるか?

厳しい状況下でも、教育だけはかなり動いているようである。教育を受けた人的資源には、貧困脱出の意欲が充分―これは、韓国の1960年代の状況にそっくりである。問題は、北の民衆の意欲にどのように「点火」するかであるが、本質は単純だ。北の人々に意欲さえ与えればいい。労力に相応する報酬を与える―北では、これが欠けているのである。

この文章を書いている最中、北朝鮮女子サッカーチームが中国・日本という強豪を破って優勝したとの朗報が入ってきた。

「北の人々に幸あれ」。