中国農民の利益は誰が代表するのか

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昨年末に発表された学術報告が、中国の内外で大きな話題になっている。中国社会科学院の社会学研究所が中心となってまとめた「当代社会階層研究報告」がそれである。中国社会はこれまで、労働者と農民という二つの階級、それに知識分子という一つの階層から成ると言われてきた。市場経済化の進展を受けて、その見直しが当然必要となっていたところ、この報告は、「組織資源(政治資源)、経済資源、文化資源」の占有状況を基準として、今の中国社会が十の社会階層と五つの社会地位等級から構成されていると結論付けたのである。

十の社会階層とは、国家および社会管理者階層、企業の高中級管理職階層、私営企業家階層、技術者階層、事務職員階層、個人工商業者階層、第三次産業従業員階層、産業労働者階層、農業労働者階層、失業者・半失業者階層であり、五つの社会地位等級とは上層、中上層、中中層、中下層、底層だという。社会主義社会の言わば常識からすると、大きな驚きは、体力労働を主とする産業労働者と農業労働者(それに第三次産業従業員)が社会的地位としては中下層に分類され、私営企業家や企業管理職の下位に置かれたことである。

この学術報告が政治的に示唆するところは明らかであろう。一言で言えば、共産党が「最も広範な人民の利益を代表しなければならない」とした「三つの代表」論の社会的根拠を提示してみせたのである。同報告は、今後工業化や情報化、都市化が一層進むに連れ、社会中間層が拡大し、それが最終的には社会階層のうちで最も重要で最も安定した勢力になることを予測する。そして、私営企業家層が中華民族の偉大な復興を実現する上で重要かつ主導的な階層だとして、その政治上、法律上の合法的な利益を認め、その先進分子を執政党に吸収することにより党の政治的および社会的基盤を拡張するべきだという。

では、労働者や農民はどうなるのか。同報告は、もちろん就業機会の創造や農民収入の引き上げの必要性について語っている。しかし現実の問題は、政治過程の中で誰が彼らの利益を代表して実際に行動するのかということであろう。

中国の政治制度の中で明らかに欠如しているのは、農民の利益を集約し、政策過程に反映するメカニズムである。日本の政治においては農民の政治力の強すぎることが問題だが、中国ではそれと反対の状況がある。自由貿易協定に日本が踏み切れず、中国が積極的になれるのも、畢竟農民の政治力の違いに由来する。長い間、教育や政治参加の機会から疎外されて、農民は今のエリートの中に自らの利益代表を持たない。だからこそ、エリートに向けられたこの報告は農民をほとんど最下層に位置付けて平気なのであろう。中国の農民は政治的、経済的そして文化的に疎外されている。農村と言えば遅れており、農民といえば無教養だという観念が固定してしまっているのだ。状況が悪化する一方で、自分たちの声が政治に反映されるチャンネルが整備されなければ、追いつめられた農民が採りうる行動はかなり限られてくるのではないだろうか。