「中国脅威論」より「日中協力論」

|中国

今年10月21日、APEC上海会議の際に中国の江沢民主席は小泉首相と会見したが、2週間も経たないうちに首相が2回も訪中したことは日中関係のなかで異例なことであった。このような電撃式の首脳外交は、日本の対中関係重視を印象づけるものであろう。日中関係が回復に向けて大きく前進するかどうかは今後の動きを見極めなければならないが、これ以上に日中関係を悪化させたくないという両国首脳の認識がここで端的に示されているのではないか。

なぜ、日中関係を悪化させてはならないのか。一言で言えば、両国関係の悪化は両国の国益に叶わないからである。しかし、残念なことに日本では近年「中国脅威論」が唱えられており、それに対抗するかのように中国でも「日本脅威論」が噴出している。お互いに相手を罵り合っているのと同様である。ところが、喧嘩しても敵対関係にならないのが日中関係である。仲の悪い兄弟のように、喧嘩はしても同じ家に暮らすしかないので、結局は妥協する。それほど、両国の相互依存関係は急速に深まりつつある。

両国の相互依存関係について見ると、日中間の貿易額は年間857億ドル(2000年)、中国にとって日本は最大の貿易相手国、日本にとっても対中貿易は米国(25%)に次いで第2位で、10%を越えている。米国経済の景気減速とテロ事件の影響で日本の対米貿易は大幅に減少する傾向にあり、今後10年間で両国に対する貿易比重が逆転する可能性すらある。さらに、直接投資が近年中国にシフトの傾向もある。最近の日経新聞によると、日立製作所は今後5年間で中国に1,000億円の設備投資を行い、生産拠点を中国にシフトするという。「生き残り」を中国に賭けての挙行であろう。一方、中国株式市場での日本の投資が前年度比6倍に急増したことからもわかるように、資本市場においても、中国のWTO加盟を契機に、日本の資本がニューヨーク市場から中国市場にシフトする傾向を見せている。

このような両国間の相互依存関係の進化とは裏腹に、日本の政界では「中国脅威論」が盛んに唱えられている。先日の夜、某新人代議士の当選パーティーに参加したが、彼が「巨大化する中国に対して脅威感をもって対応しなければならない、対中国ODAは慎重にすべきだ」と聴衆に向けて堂々と喋ったことに、私は驚きを禁じ得なかった。「中国脅威論」を唱えれば、日本国民の選挙票がたくさん集まるのだろうか。

「中国脅威論」が果たして日本の国益になるだろうか。いわゆる「中国脅威」といえば、中国の軍備増強と経済力の巨大化にほかならないが、中国の軍事力が強くなることが直ちに日本に対する脅威になる、という論理は正しいのだろうか。米国の軍事力は日本と比べ遙かに強大であり、かつて日本を敗北させたのも米国の原爆であった。しかし、その米国を脅威と見る日本人は少ない。日本人にとってアメリカは「信頼できる国」なのである。これを類推すれば、仮に中国の軍事力が日本より強くなったとしても、中国との信頼関係を構築していけば脅威は自ずと弱まるのではないか。ODAと中国の軍備増強を結びつける発想は賢明ではない。日本のODAカードは中国の軍備増強に対してほとんど無力であり、そんなことを言いだしたら却って中国から反発を受け、信頼を失うだけである。因みに、中国の軍事支出は年間約126億ドル、日本の447億ドルの3分の1にも及ばず、米国の2,650億ドルの20分の1に過ぎない。日米同盟に対して、中国の軍事力はまだ大人と子供の差がある。

中国経済力の巨大化を「中国脅威」と見ることは間違いないが、だとしても「中国脅威論」を煽ることは両国関係を悪化させ、結局は日本の国益にならないはずである。巨大化する中国との協力関係を強化すれば、日本もその成長による利益を共有できるのではないか。日本企業が対中投資で大きな利益を得ているのも事実である。

中国のある学者は、日中両国は「東アジア列車のダブル・エンジン」であると喩えたが、これは日中協力の必要性についての中国側の認識を端的に示すものであろう。日中間で「相互依存安定」を構築しなければならない時期に来ているのではないだろうか。