ロシアの教育制度

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1994年日本政府がロシア市場経済化促進の為、モスクワのプレハーノフ経済アカデミーの中にある高等国際ビジネススクール「ミルビス」をパートナーとして日本センターが開設され、ロシアの若手/中堅経営者育成に協力してきました。ここから見えたロシア教育制度の現状を報告致したいと思います。

日本の教育制度は世界のグローバル化など社会の急激な変化に対応しようとしていますが、ロシアの教育制度もマルクス経済から市場経済への移行を反映してなお混乱のただ中にあります。日本も第2次世界大戦に敗れて社会の価値観が一転しましたが、ロシアでも昨日まで正しかった事が今日は悪い事とされ、歴史経済の先生は生徒に顔向け出来ぬ一時期がありました。ロシアにおけるマルクス経済の牙城であったプレハーノフ経済アカデミーも今や、市場経済の権威として、かってのマルクス経済学者が市場経済を教えております。これら年配の学者は米国の市場経済の本をロシア語に翻訳、講義をしていますが、市場経済のセオリーはともかく、実際の市場経済はなかなか理解できぬ様です。日本センターで経済セミナーの開催に当たり、日本の講師が受講生のレベルを知る為、理解度テストを行う事がありますが、若い受講生に比し経済の教授、助教授の成績が一番悪く、これらの先生に市場経済を学ぶ学生の事が思いやられます。ソ連時代には理工系大学が花形でしたが、生産が大幅に落ちている現在のロシアでは理工系卒業生の需要は少なく、多くの理工系卒業者は法律や経済系高等教育機関で再教育を受け、市場経済下での企業経営を学んでいます。即ち、ロシアのMBAコース聴講生の特色は米国のMBAと異なり殆どが理科系大学卒業生で占められております。

日本センターでは日本より講師を招き、ロシア企業中間管理層を対象に、理論より企業経営の実際についてケース・スタディーを中心としたセミナーを実施し、その中より成績優秀者を3週間訪日研修に招いております。

ロシアの初等教育制度;

ロシアでも新聞によると就学年齢に達した児童は1989年には250万人いたものが、今年は140万人で大幅に減少しています。就学年齢は親の選択により6歳又は7歳からの何れでもよく、7歳就学児は4年間の初級過程を3年間で済ませます。中級過程は5年、上級過程は2年の3段階よりなる11年間の一貫義務教育で、日本の小中高校を合わせたものに相当し、同一校舎内で同一校長が運営管理しています。現在、義務教育期間の11年を12年に延長する案が検討されています。外国語教育は通常5年生より始まりますが、英語の人気が一番高く、日本語も希望者が多いとの事です。

義務教育には国立、公立、私立校があり、又、それらの混合形態もあります。義務教育にギムナージアと称する学校がありますが、これはアップグレードの特別学校でテスト・ケースとして設立されているものです。中上級クラスにも特別学校があり、リツェイ(帝政時代の貴族学校の名称)と言う名称が流行しております。混合形態の中には公立校の中に有料の私立校リツェイが並設されたものあり、多くは公立と私立校の校長が1人で兼務しており、校長は、優秀な先生を高給で集め、公立では行えない自分の理想とする教育を行っております。ここにはニューロシアンと称する成金の子弟がスクールバスで通学しており、リツェイの多くは外国の学校との留学協定を持ち、外国語教育に力を入れています。その他、大学付属特別校があり、例えば、国立モスクワ言語大学(旧国立プシュキン外国語大学)では幼稚園より大学まで,外国語の一貫教育を行っております。これらの特別学校も国立、私立などには関係なく”リツェイ”と言う名称を付けている場合が多く、卒業の時点で優等生は既に日本の外国語大学卒程度の語学力を持っており、大学では多くの場合、自然・社会科学等、別の専門を専攻し、外国語の出来る科学者・技術者として活躍しております。

一方、ソ連時代の実業学校制度も残っており、義務教育の最後の2-3年間、技術教育、工場での実習を行い、義務教育終了後直ちに工員として就職出来るコースもあります。

高等教育制度;

大学はアカデミー、インスティチュート(専門学校)は大学と権威付けの為、嵩上げした名称の学校が多く、その数は日本の駅弁大学の比ではありません。カレジ、インスティチュートも有りますが少数派です。これら教育機関の資格審査は教育省、高等教育省が行っていますが、もっと厳格に資格再審査を行うべしとの議論がマスコミでよく報じられています。ロシアの高等教育機関で特筆すべきは、昔の共産党幹部養成学校が大統領府及び政府付属国民経済アカデミーと称するビジネススクールに変身する等、ロシア中堅幹部の再教育機関が多く作られていることです。また、軍縮に伴い無料の各種軍人再教育機関が設置され、政府補助金が支給されています。

ロシアの大学では文科系は5年、理科系は6年ですが、人気のある大学はヨーロッパの大学と交流協定を持っていて、3年又は4年終了時、バカロレアの学位を与え、後半の1-2年の過程をヨーロッパの大学に留学、卒論はロシアの大学に帰って仕上げ、卒論審査にパスした者に、ロシアとヨーロッパ両大学のマジェストリーの学位を与える制度があり学生の人気を博しています。これに対し通常の大卒は単に専門家と称し、3年の大学院の課程修了、論文審査にパスした者に学士院会員候補の称号が与えられます。

ロシアの大学運営は国立といえども大変で、政府より支給される必要経費は2割程度で、残りの8割は校舎等設備の賃貸料、印刷所経営等の事業収入、生徒からの割増授業料、父兄からの入学寄付金等でやり繰りしております。例えば、プレハーノフ経済アカデミーの場合、入試成績最優秀者には奨学金、授業料免除の優遇制度がありますが、大多数の学生の通常授業料は$6,000、入試成績による割増授業料は$8,000~10,000、更に下位者は割増授業料の他に、父兄より寄付金$12,000を徴収、入学を許可しているとの事です。

教授の月給は来年より2倍になるとの事ですが、現在は$150-250で、上記授業料は普通のサラリーマン家庭では負担出来る金額ではありません。大学付近の駐車場は学生が乗ってくるベンツ、BMWなど高級車であふれ、車の整理ができぬ程です。老教授はその側を徒歩でトボトボ通勤と言う光景が日常茶飯事で、今のロシアを象徴的に表していると思います。

日本の大学入試は筆記試験で、しかもOX式のものが多くありますが、ロシアにはOX式の試験は殆どありません。ロシアの入試は筆記試験と口頭試験の両建てで、口頭試験では受験生が箱の中より封筒に入った問題を選び、設問に対する回答を口述すると試験官より質問が返ってきて質疑応答がなされます。ロシア人は日本人に比べ一般に雄弁、初等学校でも、大学でも自己表現能力、発表能力は鍛えられています。一方、口頭試験のお陰でかつての共産党幹部の馬鹿息子も、ニューロシアンのどら息子も権力や金の力で良い学校に入学でき、公正の点からは日本式の方が優れていると言えます。入試もお国の事情で様々です。

大学の中にはテクノポリスが創設され、若い起業家を積極的に支援しているところが相当数あり、教育機関に与えられた免税制度を利用、大学がインキュベーターの役割を果たす等、ヴェンチャー企業の育成を行っています。ニジネ・ノブゴロド技術大学でテクノポリスを見せてもらいましたが、西欧諸国より機器向けソフト開発を受注し、価格的にインドと競争しているとの事でした。日本もロシアのソフト開発能力は高いので試してみると面白いのではないかと思います。

ロシアも学歴社会、教育熱心な国で、親は子供の教育に金を惜しまないので、学校産業は大いに繁栄しています。しかし、金持ちの子弟だけが良い教育を受けられる現状は、教育の機会均等の点からみて問題です。しかし、向学心に燃えた若者は昼間働き、夜間の学校に行くか、通信教育を受け頑張っています。広い国土を持つロシアでは通信教育は非常に発達しており、今日のような変革の時代には彼らの中からこそ、次代を担う人材が出てくるのではないかと期待されます。

1997年に未就学児童教育、義務教育、中等・高等教育が改定され、ロシア連邦新教育法が議会で採択され今日に至っていますが、今年中にもまた相当大幅な改定が行われる模様です。

以上