ロシアにおける日本語教育

|ロシア

ロシアにおける日本語教育は映画「おろしや国酔夢譚」に見る如く、日本が鎖国していた江戸時代、即ち、ピョートル大帝、エカテリーナ女帝の17/18世紀頃より既に日本人漂流民を教師として始められていた。現在もロシアにおける日本語教育熱は高く、国立サンクトペテルブルグ大学、国立モスクワ大学付属アジア・アフリカ諸国大学、ウラジオストック極東国立総合大学、モスクワ国立言語大学(旧プーシキン記念国立外国語大学)、外務省管轄の国際関係大学等が伝統を持った日本語の高等教育機関として有名である。モスクワ、サンクトペテルブルグ以外、特に、ロシアの極東地域、ウラジオストック、ハバロフスク、ユジノサハリンスク等では日本語教育に関する関心が非常に高い。その他、ニジネノブゴロド、ノボシビルスク、イルクーツク、チェリャビンスク、クラスノヤルスク、エカテリンブルグ等の地方都市でも日本語講座を開設する大学が近年益々多くなってきた。しかし、ロシアはペレストロイカ以前のソ連時代、外国又は外国人との接触を制限する鎖国政策を取ってきた事、日本留学より帰国した若手が給料の安い大学の日本語教師にならぬ為、年配の優秀な日本文学研究者、日本語文法の権威はいても、日常会話では”てにおは”を間違える日本語教師が多い。

従って、ロシア教育機関からの要請に応じて、日本語教師が国際交流基金を初め、日本の各種機関から派遣され、コミュニケーションの手段として、実際に役立つ日本語教育に大きな成果を上げている。在露日本大使館広報部の調査によると、2001年度は「国際交流基金」より7名、「日露青年交流センター」より14名、「日本外交協会」より4名、「インターナショナル・インターンシップ・プログラム」より4名、新潟市より1人、新潟県教育委員会[REXプログラム]より1人等が派遣された。その他多数のボランティア日本語教師がロシア各地で日本語教育に従事している。(詳細は3ページ記載リストを参照下さい。)

ロシアでは初等教育から日本語を教えている学校が多くあり、モスクワだけで14校、その他、極東ロシアを中心とした多くの小学校で日本語教育が行われている。5年生から外国語の授業がある。第一外国語は必修であり、英語を履修する者が最も多いが、第二外国語は選択で英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、アラブ語、日本語等がある。初等日本語教育の問題点は、大学の日本語学科卒業生が日本語教師となっているが、資格検定試験は無く、日本語の不完全な教師が多く、初等教育で日本語を選択した生徒が大学の日本語科に進学することは稀で、残念ながら、余り成果が挙がっているとは言いがたく、日本語一貫教育となっていない。

日本側実施の日本語講座としては大使館広報部日本センター以外に、日本政府の対露支援事業の一環としてモスクワ大学、ミルビス、サンクトペテルブルグ、ハバロフスク、ウラジオストック、ユジノサハリンスクの日本センターで日本語講座が開設されている。これらセンターの日本語講座は日本から派遣される日本語講師、現地日本人留学生を助手とするネイティブの日本人から無料で日本語が習え、教科書も最新式のもので、LLなどの設備面も優れ、しかも成績優秀者は約1ケ月の訪日研修が受けられる為大変な人気である。収容能力に対し希望者が多いため選抜テストが行われている。2001年9月より始まった本年度日本語講座でも入試倍率は5-7倍であった。ミルビス日本センターだけで、この6年間に日本語講座受講者は約800人に達した。2001年6月には6年修了者12名、5年修了者20名を送り出した。アンケートによると日本語学習の動機は日本語、日本文学、芸術等日本文化に関心のある者、経済・技術関係研究機関で働く者と、日本語を使って働きたい、日本とビジネスをしたい、日本の会社で働きたいという実務希望者が40対60%の比率であるが、現状では日本語講座修了生の就職は殆ど無い状況である。何故こんなにロシア人の日本語学習熱が高いのか不思議である。マスコミの日本を賞賛する記事が多いことの影響も大と思われる。実際に、ロシア人にその理由を聞いてみると「資源の無い日本が奇跡の復興を遂げた事、ハバロフスク州の半分の小さな日本が世界第二の経済大国になった事、日本製自動車、電子/家電製品等工業製品の品質が高いこと、及び、優秀な生産システムを生み出した日本人の能力・社会に興味があること、又、ロシア人にとり日本の文化、日本芸術は何か特別なエキゾティックなものであり、又、世界で最も難しいと言われる日本語に挑戦することが格好いいと考えるロシア人の思考形態も関係ある」との意見が多くあった。何れにせよ、日本人の対露イメージが悪いのに比し、ロシア人の対日イメージは大変良いのは皮肉な現象である。

対露派遣日本語教師リスト

1.青年日本語教師派遣
ウラジオストック極東国立総合大学東洋大学 1名
ノボシビルスク国立大学 1名
ハバロフスク国立教育大学 1名
モスクワ国立大学 1名
サハリン国立総合大学経済東洋大学 2名
2.その他機関からの派遣
日露青年交流センター日本語教師支援事業
モスクワ大学ジャーナリズム学部 1名
ウラル国立大学 1名
ピャチゴルスク言語大学 1名
リャザン国立教育大学 1名
クバン国立大学 1名
サンクトペテルブルグ国立大学 1名
サンクトペテルブルグ国立文化大学 1名
ロシア国立教育大学、東洋大学(共同受け入れ)
ウラジオストック極東国立総合大学国際関係大学 1名
ウラジオストック国立経済サービス大学 1名
極東国立海洋アカデミー東洋語学科 1名
ハバロフスク国立工科大学 2名
極東外国語大学(兼任)
ハバロフスク経済法律アカデミー 1名
ユジノサハリンスク経済法律情報学大学 1名
日本外交協会ボランティア教師派遣事業
ニジネノブゴロド国立言語大学 1名
カザン国立教育大学 1名
第583番学校 1名
インターナショナル・インターンシップ・プログラム事業
ノボシビルスク国立工科大学 1名
日本ユーラシア協会
カザン国立工科大学 1名
コムソモーリスク・ナ・アムーレ工科大学 1名
チタ州ザバイカル教育大学 1名
新潟市役所日本語教師(市役所職員)派遣
ウラジオストック第51番学校 1名
新潟教育委員会「REXプログラム」
極東国立海洋アカデミー 1名
シルバーボランティア
ウラジオストック国立経済大学 1名

この他、ロシア及びNIS諸国全域でボランティアベースの日本語教師が多数働いている。1998年国際交流基金が日本語能力試験を開始してから、自分の日本語の実力を客観的に知りうる物指しが出来、日本語学習者に一層の励みが出来てきた様である。日本センター日本語講座受講者より日本語能力試験1級合格者数名が出ており、プロの通訳として働く人、日本に留学した者、ロシア企業、政府機関で働く者、各種研究所で翻訳官として働く者、日本企業で働く人も僅かではあるが出てきた事は誠に喜ばしい。

戦後順調に発展してきた日本も今や構造改革の真っ只中にあり、日本の明日を決めるのは教育であると言われるが、日露の相互理解を深め、日露両国の政治経済関係を発展させる為には言葉が大きな役割を果たす事は疑いない。ロシアに於ける日本語教育が、両国にとって将来大きな実りをもたらす基盤となることを期待して止まない。

以上