「先軍政治」は平和的経済建設と両立するか ~平和と安定・復興と協力を拒むもの~

|朝鮮半島

人工衛星「光明星1号」を搭載した多段階運搬ロケット「白頭山」が津軽海峡上空を通過して人々を驚かせたのは、1998年8月のことであった。5日後の最高人民会議第10期第1回会議では金正日党総書記が国家最高位である国防委員長に就き、ほどなく強盛大国建設ビジョンが打ち出された。「銃床重視」や「先軍革命」など、ワープロの漢字変換に苦労するような軍事的色彩の強いスローガンがいっそう目立つようになったのは、この頃からであろうか。だが一方で、経済復興の足取りが感じられるようになったのもこの時期からである。

朝鮮経済にとって、社会主義市場の消滅・経済的封鎖と軍事的緊張・自然災害の続発は、まさに「3重苦」であった。「貿易の70%をも占めていた安定した市場が…あれよあれよという間に消滅し、その予告も一定の据置き期間も無く『各国と結んだ長期・短期の貿易協定が宙に浮き、履行中断』になってしまった…のであるから朝鮮経済が蒙った影響がどれほど唐突で大きなものであったかは想像にあまりある」(JETRO『北朝鮮の経済と貿易の展望』1994年版、p79-80)。もちろん、長引く経済的困窮にはそれ以前からの問題が大きく影響していることも否定しがたい。何れにせよ、「経済運営に必要な燃料・電気・輸送インフラ・通信・食料・外貨など殆んどすべてのものが不足している」(『EC-DPRK Country Strategy Paper,2001-2004』p9)状態が続いた。

「常識」からすると経済が一度ならず崩壊していても「不思議」ではない。その謎を解く手掛かりのひとつが「先軍政治」にあるように思われる。主要企業にさえ通常の4分の1程度しか供給されない電力事情、起き上がって職場に行くことすら困難であった食糧事情、その「苦難の行軍」の最中で、発電所の建設や農地の整理など経済再建の土台づくりを担った主力は軍隊であった。安辺青年発電所、价川-台城湖水路などの難工事ばかりか養魚場や家禽工場の建設、果ては農作業にまで軍隊が投入されたのである。誤解を恐れずに言うと、組織力と任務遂行力において格段に優れている軍隊を経済再建の先鋒として投入したのは、限られた資源の配分から考えて最も効率的な選択であった可能性が高い。

かくして、自立的民族経済の基幹となる重工業企業の再編、人民生活に密着した軽工業と食料関連施設などの集中的近代化、農業インフラの整備など、正常化の基礎的要件を整えたうえで、昨年7月からは経済活性化のためのインセンティブ制度の導入を主要な特徴とする改革措置が施行されるに至り、今春には技術改建を柱とする「5ヵ年計画」が開始する予定だという。昨年で4年連続のプラス成長を遂げたと評価されているものの、解決すべき問題が多いことは指摘するまでもない。食糧とならんでエネルギーや輸送などのインフラもその最たるものだ。だが、電力に関して言うと、渇水期・氷結期と農業用水需要期の水力供給力の低下、燃料不足による火力の限界から原子力の開発に向かったものの、核開発の疑惑から凍結せざるを得ず、輸送に関しては、南北鉄道の連結と近代化のための協力がシベリア鉄道との連結も視野において積極的に進められているものの、非武装地帯管轄権をめぐってしばしば遅延を余儀なくされてきた。幾つもの問題が朝米関係と結びついている。

米国が阻止しようとしているのが専ら大量破壊兵器の拡散かどうかは大いに疑わしい。金正日政権が目指す経済復興と民生安定、国際関係のさらなる改善と平和的秩序の構築、これらすべてに尽く立ちはだかっているように見える。主権尊重に合意した相手を”axis of evil”と呼び、”We are entitled to have nuclear weapons and more …”を核兵器開発の是認と決め付けたのは明らかに誤りである。掛け違えたボタンは最初から掛けな直されなければならない。阻止されるべきは、50年にもおよぶ不正常な関係がこれ以上存続することである。

(2003.1.26記)