『7.1経済管理改善措置』と新国家体制の5年

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今年(2003年)7月1日には、朝鮮民主主義人民共和国において物価と賃金の改正に代表される経済管理制度の改善措置(以後、『7.1措置』等)が実施されて丸一年(1)を迎えるが、同じ7月、第10期最高人民会議の成立から5年を迎え、間もなく任期を終えることになる。前回にも書いた5年前の多段階運搬ロケット『白頭山』の打ち上げや昨年来の『核開発是認』説など、軍事的緊張に関わる『事件』や『不法行為』ばかりが印象づけられているが、この5年間は、経済の再興と国際関係の改善において決して蔑(ないがしろ)にできない変化を遂げた期間でもある。

第10期議会成立からの5年に合わせてか、最近の労働新聞には何かと5周年にちなんだ記事が目に付くようになった。例えば、”第2の千里馬運動”の烽火を点したソンジン(城津)製鋼連合企業所への現地指導5周年に際しての『政論』(2)や、カンウォン(江原)道の土地整理事業開始5周年を振り返る長文の論説(3)などがそれである。

ここで、5年という数字に注目する理由は、『7.1措置』によって経済の変革に着手したのではなく、5年におよぶ経済再興の施策のなかに『7.1措置』が位置付けられるのではないか、との着想によるものである。最高人民会議第10期第1回会議は、新体制の施政方針を示さずに終了したものの、今になって考えると会議から間もなく掲載された労働新聞と『勤労者』(4)の共同論説『自立的民族経済路線を最後まで堅持しよう』(9月17日)は、経済部門の施政方針とも言うべき重要性を持っていたように思われる。

この共同論説が提示した課題は、つまるところ①自国の経済土台にしっかりと依拠する観点を持つこと、②経済事業では実際的な利益を追求すべきであることの2つだ。初めて重要文献に『実利主義』が登場した場面である。目に付く表現をいくつか拾ってみよう。

  • 「経済事業に虚勢は通じない」
  • 「変化した環境と条件に応じて経済事業をフレキシブルに組織・展開することも実際的な利益を実現する方途である。経済事業は主観と欲望だけでは成立しない」
  • 「…蟻が骨片をかじる戦術で全般的な経済をひとつひとつ回復させることが経済を一日も早く活性化させる道である」

抽象的ではあるが、これらを見ると近年実行された諸施策のベースにある考え方がここに示されていることが分かる。

共同論説の後、電力・石炭・金属・鉄道などの先行部門に力を注ぐ一方で、この部門の供給能力に応じて工場の統廃合を行なったと目される動きが現れた。連合企業所の解体と再編(1999年~2001年)である。これについて、ある新聞の特集(5)は「もう一つの変化は85年7月に全面導入された連合企業所(業種、地域、生産的連携による企業集団群)体制が構造調整に入ったことに見られる」とし、この措置について「企業の効率的管理に目標をおいて生産の内実化を図ったもの」と分析した。

さらに、第2回最高人民会議(1999年4月)では『人民経済計画法』が採択され、これに沿って計画立案権限の下部への委譲や計画立案方式の見直しなどが行なわれ、実情に即した計画化が行なえる制度的条件を用意した。企業の支配人を労働者による選挙で選出するようになったとも伝えられた。

長年の懸案であった老朽設備の問題にも着手し、『科学技術発展5ヵ年計画(1998-2002)』の優先順位にしたがって「蟻が骨片をかじる戦術」のもと、徐々にではあるが設備の更新と現代化が進み始めた。

国家計画委員会のチェ・ホンギュ局長は朝鮮新聞社とのインタビュー(6)で今年から『燃料・動力3ヵ年計画(正確な名称は不明)』が開始したことに触れ、「燃料・動力が3年間の目標レベルで提供された場合、金属はどのくらい可能で化学肥料はどれだけ出来る、このように全ての経済部門の目標を定めた」と語った。

このように、供給可能なエネルギーの枠内での現実的な計画化、生産能力の調整と稼動可能な設備状態の確保、資材の調達システムの補完(物資交流市場の創設)など生産正常化のための最低限の必要条件を整えた後、実績に応じた分配制度と企業評価制度の適用を本質的な内容とする『7.1措置』が断行されたと見られる。『7.1措置』は、新国家体制への移行後5年間に『ホン・ソンナム(洪成南)内閣』が実施した経済的施策の言わばハイライトであった。この内閣は任期中にヨーロッパ主要国等との国交樹立という課題においても成果(7)をあげ、活発な経済外交を行なった。さらに50年ぶりに国債(『人民生活公債』)の発行にも取り組んだ。改めて5年間を振り返ってみると、この内閣を『経済内閣』と呼べないだろうか…、そんな気がしてくる。

さて、次なる内閣が今後さらに経済の課題に専念できるだろうか、その答えはユニラテラリストとの鬩(せめ)ぎ合いの帰趨によって間もなく下されることになろう。良識の勝利を信じたい。

(2003.5.31記)


(1) 『7.1措置』について、一方では、物資の極端な不足によるハイパー・インフレーションで改革は破綻したと断定する見解、他方では、経済活動を正常化するうえである程度の効果を発揮したとの評価があるが、筆者は、仮に改革を実施しなかった場合と比べてはるかに利点が多かったと評価している。また、『7.1改革措置』は半ば必然的であり、多少のイレギュラーがあったとしても一貫性を持って推し進めるべきであると考える。
(2) 労働新聞2003年3月9日付政論『勝利のチョルス(「鉄湯」=高熱でどろどろに溶けた鉄)が沸く』。朝鮮では「情意的な表現を多用した論説」を『政論(音訳、あるいは情論?)』と呼んでいる。
(3) 労働新聞2003年5月4日付論説『先軍時代の偉大な転変』。論説の主題であるカンウォン(江原)道の土地整理事業は1998年7月22日付国防委員会命令第0031号によって開始された。なおこの論説では、国防委員会の権能強化した5年前の措置を「先軍政治の法的保障」、先軍政治実現の「国家機構体系の構築」と評している。
(4) 朝鮮労働党の政治理論雑誌。
(5) 韓国の有力紙である『中央日報』Web版、2000年12月22日掲載の特集記事『金正日の”北韓”…現在変化中』
(6) 『朝鮮新報』2003.4.1付の朝鮮文記事『今年からわが国で燃料、動力問題解決のための3ヵ年計画』
(7) イタリア・イギリス(以上2000年)、オランダ・ベルギー・カナダ・スペイン・ドイツ・ルクセンブルグ・ブラジル・ニュージーランド・クエイト・バーレーン・トルコ(以上2001年)に国交樹立、EUとの修交決定も2001年。