良いニュースと悪いニュース 動き出したサハリンプロジェクトと北海道経済(最終回)

|ロシア

二人の宇宙飛行士の会話

飛行士 「機長、良いニュースと悪いニュースがあります。」
機長   「良いニュースから教えてくれ」
飛行士 「我々のロケットは燃料補給も終え、管制塔からカウントダウンを待つのみです。」
機長   「それは良かった。ここ数年の苦労の甲斐があったな。で、悪いニュースは?」
飛行士 「我々のタクシーは発射に間に会わない模様です。」

最近、こんな古典的なアネクドートが頭に浮かんだ。この「ロケット」が数兆円の投資といわれる「サハリンプロジェクト」、タクシーの二人は「日本企業」というイメージが重なる。5月15日にサハリン-2プロジェクトの正式な着工宣言が行われ、6月2日には、同プロジェクトの実施主体である「サハリンエナジー・インベストメント」社と千代田化工・東洋エンジニアリング連合が3,000億円近くの液化天然ガス(LNG)生産基地建設契約を行ったというニュースが新聞を賑わした。その一方で、同じ6月2日の「日経産業新聞」では「サハリン-2経済効果は素通り」という記事が掲載されている。–(引用)LNGプラントの建設が7月にもはじまる。ピーク時で約6,000名が建設に携わるとあって、建設地から百数十キロメートルの北海道では雇用創出への期待が高まっている。しかし、実際にはコストの高い日本人労働者や日本製機材はほとんど使われない見通しという。—(引用終わり)

私自身も実際、約6,000名の作業員といわれるLNGプラントの建設において、労務者として北海道の人間が入る可能性は僅かだと思っている。また、機材も一般的な日本の商流にのって輸出されることは困難である。北海道だけでなく、日本のローカルルールが国際競争社会には適合しなくなっていることはは言うまでもない。そして、このローカルルールを守っている限り、サハリンプロジェクトに限らず、北海道企業が生き残る術はない。上記の日経産業の記事は「サハリン-2は空洞化が進む日本経済を映す鏡かもしれない。」と結ばれている。そしてこれは、北海道企業が厳しい現実を目の当たりにする序幕ともいえよう。

サハリンビジネスは北海道経済の将来を移す鏡

悲観的過ぎるようだが、これが現実である。根っからのポジティブシンキングの私でも否定はできない。ただし、上記の文章に一つの条件が含まれている。”一般的な日本の商流にのって”。逆に、今までと違った動きをする企業が現れている。このような動きが上手くビジネスベースにのるか、どこまで拡大するのかが道内企業のサハリンビジネスの勝敗を決める。日経産業新聞の言葉を借りれば、「この成否は北海道経済の将来を移す鏡となる」と考えている。

ある北海道の企業が先日、ある商社系の大手企業を従えてサハリンでプロジェクト関係企業を案内して歩いた。この大手企業は親会社経由と、この道内企業経由と同じ引き合いを受けていた。しかし、想定金額があまりに違うのに驚いていた。道内企業の場合、メジャーから直接オーダーを受けているのに対し、一方はいくつかの企業を経たものであった。どちらが有利か言うまでもない。欧米企業がサハリンから北海道に来て直接買い付け交渉をしていく、そのような商談スタイルが発生している。ここは北海道の地理的優位性をフルに生かしている。

北海道経済の正念場

「相手が完全に我々を頼ってるんですよ」。ある地方都市の零細企業の社長から出た言葉。本州大手企業と商談が順調に進んでいる同社は、最近相手企業がサハリンの情報を得るため向こうから相談をしてくる。数年早く、サハリンに踏み入れ現地企業のコネクションを培った結果である。また5月末、北海道の小さな企業が、サハリン州の止水工事を施工した。小さな工事だが、道内各社がそれを取り上げ、そのPR効果は多大であり、同社に様々な大手企業からのコンタクトがあった。その他にも寒冷地技術を生かした働きかけをする企業、北海道在住の外国人という立場を振るに活かした豪州ビジネスマンなどが必死にプロジェクト参画を目指している。

幸いなことに私の周りには今そのような元気な企業が沢山いる。本オピニオンコーナーで過去に何度かその事例を取り上げたが、皆なんとか脱落することなくサハリンプロジェクトの動向を虎視眈々と伺っている。北海道経済は悪いニュースが目立つ。でもその一方、小さなビジネスの芽は確実に生まれている。繰り返しになるが、この数年のサハリンプロジェクトに関する動きは、北海道の将来を指標になる。北海道経済にとって今が将に正念場である。