日ロ経済関係の今後の展望

|ロシア

以下はあくまでも朝妻個人の見解であることをお断りしておく。

川口外務大臣の就任後モスクワへの初来訪が実現した。川口大臣は10月11日に到着し14日の離莫まで、土、日を挟んで精力的にスケジュールをこなされた。この大臣訪ロには、それ自体に重要な意味があった。日ロ関係のさらなる発展のきっかけとなることが期待されたということである。実際には、それ以上の大きな効果を得ることができたと思う。滞在中最後の日に開催された『貿易経済に関する第六回日ロ政府間委員会会合』の結果、川口外相とフリステンコ副首相の間で調印された覚書を見る限り、実に盛りだくさんの内容が織り込まれ、それだけ両国の経済分野の協力案件があることがわかる。

大事なことは、経済面だけをとっても、両国間にはそれだけ多くの協力案件があること、そして今後は真剣にこれらの問題に取り組んで行こうという両国の姿勢が再確認されたということであろう。

それだけではなく、覚書の各項目に丁寧に目を通してみると、その一つ一つが実に重要な意味を含んでいることがわかる。(その中のひとつに極東・シベリアの協力の検討のために『ロシア連邦極東地域との経済関係の問題に関する分科会』を近い将来に開催する必要性が改めて強調されていることは注目される。)

さて、話は一旦逸れるが、最近の両国におけるそれぞれの政治・経済の推移を想起してみよう。周知の如く、ロシアでは1998年の経済危機以降、安定した成長が観測されてきた。特定の幸運的条件に支えられているとはいっても、以前のようにエリート・オリガルヒーによる恣意的な経済操作を放任していた時のような、無策経済はなくなった。宙返りや錐揉みを連発する航空ショウさながらの危なかしさも消えて、かなり手堅いものとなってきた。人口、国土、資源など国の規模と比べて、政府の予算規模は寡少に過ぎると雖も、政府による経済管理の手法を徐々にながら確実に習得しつつあることは評価したい。反面、犯罪まがいの会社乗っ取りや、株主となっている企業間の抗争は以前ほどの頻度ではないにしても、まだまだ安心して投資をしたくなるような環境からはほど遠い。従って、今後ともこの部分の改善は数倍強化されなければならないが、総じて着々と前進していることは確かである。

一方、日本側で起きた一連の政治劇の結果、日ロ間の関係はどういう影響を受けたと見るべきなのか。状況は整理されてすっきりしたのか、それとも反対に混迷の度合いを深めたのか。一時、国会生中継視聴率は記録的な数字となったが、理由や是非論は別としてとにかく、喧嘩両成敗のような形で主役が二人とも舞台から消えてしまったいま、日ロの関係の視点からは、あの事件はどのように評価されるべきなのだろうか。

あるロシアの下院議員は、『北方領土の問題では日本側から崖っ淵まで追い詰められて、どういう答えを出すべきか対応に汲々としていたが、突然日本側が自発的に後退してくれたため、気持ちにも時間にも一挙に余裕が出来た。』当分の間悩まなくて済むと思っている。蓋し本音であろう。しかし、今後両国間の中心的テーマは何になるのか。私はむしろ、領土問題にのみスポットライトがあたりすぎて、他がすべて脇役になってきた、そうした過去から脱却して、両国が真剣に経済問題の改善に全力を投入しなければならない環境が出現したと思っている。(勿論、領土問題の重要性は日本にとっては変わらないのであるが…。)

尤も、両国の経済問題改善というテーマは双方にとってずっと存在していた懸案であり、今更改めて取り上げるまでもないとお考えの方も多いだろう。

もともと多重的関係を重視するという考え方は、以前からあったが、実際には日本人一般にロシアとの関係改善の必要性に関する意識が希薄であったといえる。隣人とのつきあいは『日頃の付き合い』の濃さの度合いに左右されるが、日ロ間には経済、文化面におけるまさに『日頃のつきあい』が極めて薄い状態のまま推移してきた。日ロ間の民間交流では、文化、技術面で随分と草の根的に努力してきている人たちが少なくないが、ロシア極東、シベリア地域同士の地域交流を別にすれば、総じておおいに不十分と言わざるを得ない。特に、欧米諸国とは比較すべくもない。それぞれのニュアンスは違うが、中国や韓国に後れをとっているといえないか。(尤も欧米や韓国などは歴史的に血縁関係を張り巡らしているなど、関係の濃さにおいては日本とは単純比較できない面があることは認めざるを得ないが。)

日ロ間の経済面に話を戻そう。民間における経済交流という面では日本はソ連崩壊後も、経団連を中心に新たなる関係構築に大きな努力を重ねてきた。しかし、その努力に比して報われている部分はあまりに小さい。新生ロシアになってからの関係は、改めて数字で示すまでも無い。

日本から見て、ロシアに本格的に取り組むためのキー・ファクターはいろいろあるが、纏めて言えば(1)ロシアの政治経済の安定、(2)市場経済のキャッチアップの度合い、である。(1)についてはここでは言及を避けるが、(2)については、なんと言っても経営者教育が重要であると思っている。彼らが嘗てソ連時代に資本主義経済について学んだ、搾取経済、略奪資本主義、悪魔の経済のイメージから脱却して、『ビジネスパートナーを信頼』して、『自らも決して騙さない事』、『契約を完全遵守すること』、そして経営の基本である、マーケッティング、品質管理、投融資、労務管理、等々を習得せしめることは、一見遠回りに見えて、むしろ近道であろう。今回の覚書の第三項にもある『日本政府の知的支援の一環として、日本センターの役割は重要である』ことは、小生自身、直接携わる立場になってよく理解することができた。こうした日本の支援によってロシアは更に成長し、同時に日本との絆を深めていくことができる。今後のロシアの経済はソ連時代の重厚長大型から、中小企業による経済の再構築が格別重要であることは大方の専門家の認める通りである。いまこのロシア経済に欠落している部分を埋めてこそ、5年後のロシア経済の発展があると言っても過言でない。日本は、G7諸国とともに、この種の知的支援を地道に行い、日本とのビジネスの基礎を築きつつあるが、これは日本がおおいに誇ってよい支援であろう。また、こうした教育を受けた経営者を持つ企業の中から日本との貿易及び共同事業のパートナーが出てくるのも時間の問題と考えている。