日ロ貿易の現状分析と今後のあるべき姿に関する私見

|ロシア

最初に両国間の貿易額の推移を改めて振り返ってみよう。

以下の表はロシア発展貿易省の統計によるものである。(何故かロシア統計局による統計年鑑=2002年度版=と異なる。貿易省の数値は日本財務省の数値と近似しているが統計局の数値は常にそれより20%から35%下回っている。種々の理由が考えられるがここでは本旨ではない故省略する。)

日ロ間の貿易の推移(単位:100万ドル)

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
1-6月
貿易額 5,933.4 4,960.2 5,009.8 3,846.3 4,225.4 5,168.2 4,592.0 1,863.4
輸出 4,763.3 3,936.8 3,995.4 2,874.9 3,747.0 4,596.8 3,872.7 1,424.2
輸入 1,170.1 1,023.4 1,014.4 971.4 478.4 571.4 719.3 439.2
筆者註: ①輸出および輸入はそれぞれロシア側から見た数値ゆえ財務省の統計の逆となっている。
②日本ではすでに2002年末までの財務省統計が出ていると思うが、現時点で筆者の手元にあるロシア側発表の数値は1~6月の統計で留まっているゆえご了承をお願いしたい。

他方、上記の統計からも容易に推察が可能な如く、2001年現在、日本側から見ての日ロ貿易の比率は総額で0.6%、輸出では0.18%、輸入1.1%と依然として低水準のままである。

ロシア経済発展貿易省のデータによればロ日関係の貿易は1999年-2000年が再上昇の時期にあたり、1998年の38億ドルから52億ドルまで伸びた。しかし、2001年-2002年は再び下降線をたどり、2001年には46億ドルに下落した。また両国の貿易ではロシア側の輸出が大幅に伸びた1999-2000年の後、2001年には再び急激な減少傾向を辿りはじめている。しかも輸出入間の貿易バランスは5.5倍の格差という激しいものとなった。2002年は半年間の動向をみても総額でわずか18.6億ドル、輸出入の格差は3倍という状況となった。

ロシアから日本への輸出におけるアイテム別の構成をみると、まず全般的に相変わらず低加工度商品、食品、原料が大半を占めていることが注目される。2001年およびその後も同様の傾向が続いている。2001年を例にとると、依然として非鉄金属・貴金属(金額ベースで41%)、海産物(27%)、木材および木材加工品(15%)、石炭(10%)となっていることからも明らかである。

日本側からの輸入の中では機械・技術関連商品、たとえば建機、輸送機械、家電製品、金属加工機械、通信機器などである。日ロ間の戦略的協力分野としては、燃料資源につきるが、その中で現在最も将来性のあるものはサハリン石油開発プロジェクトであることは申すまでもない。(サハリン1、サハリン2)しかしこのことは同時に、他のエネルギー資源分野で、両国が認知したプロジェクトが殆ど無いということを同時に物語るものである。そうは言っても、このプロジェクトを軸に鋼管の発注や日本側融資(国際協力銀行による16億ドルの融資)が動き始めていることは、低迷する日ロ貿易にとっては乾坤一擲の意味を持つことは論を待たない。

勿論、アンガルスク-太平洋岸パイプライン敷設プロジェクト構想はまだ、中国大慶向けとの優先順位において決着がついたわけではない。(5月に行われたユーコス社と中国CNPCとの間での基本協定は、このラインを優先させたいと志向する関係者のデモンストレーションと捕らえるのが妥当であり、その証拠に協定書はいわばletter of intentionに属するものであり、敷設条件などに関する具体的な内容は含まれていない。今後の紆余曲折は十分想定されることであり、いずれにしてもどちらに軍配があがるかは現時点で予断は許されない。)ロシア側の大統領、政府いずれも決断を下しかねているというのが実情であろう。

エネルギー関連を別にすれば、最もダイナミックに進んでいるのは自動車分野である。たとえば、三菱自動車はロシアにおける売上総額を一挙に35%伸ばした。特に2002年に置いて同社はニューモデルで攻勢をかけ、過去9ヶ月間のみで35%売り上げを伸ばした。昨年つまり2001年の1-9月の売り上げ台数が4,126台であったに対して、今年の1-9月では5,592台に達している。(出所:三菱自動車「オフィシャル・ディストリビューター」)詳細は割愛するが同様の数字の推移がニッサンおよびトヨタにも現れている。ただ、問題はこれらの大半がヨーロッパ経由の所謂迂回貿易の形をとっていることである。

欲を言えば、欧米の自動車産業のように、市場の懐に入って自動車生産を試みて欲しいところである。それに、非常にチャンスがある部品産業にもまだ打診さえ試みていない。いずれにしても自動車部門は今後の日ロ間の貿易・投資の牽引的役割を果たすことになると見られる。日本の自動車部品産業はすでにチェコ、ハンガリーには中小規模とはいえそれぞれ150社~200社がなんらかの形で投融資しており、具体的に動いていると言われる。その中で、何故ロシアだけが取り残された市場のままなのだろうか。日本企業にとっては客観的環境と精神的なバリアが障害となっていることを嫌々ながら是認しても、昨今のロシアのマクロ経済の発展を見ると、ロシア人ならずともその格差には首を傾げたくなるところである。むしろ問題はミクロ経済の方に問題があることは否定できない。

他方、ロシア側は日本に何を期待しているのであろうか。石油・ガスの井戸元の共同開発、木材伐採・加工の共同プロジェクト、観光産業の推進などを例として協力を求めている。確かにこうした分野には日本の技術と経験を必要としていることは間違いない。更に、現地で生活して強く感じることは、エネルギー資源の節約と天然資源の有効活用の分野を包含する公共問題の改革に置いても、日本の経験と投資が必要である。しかしこうした問題点に対する日本側の協力姿勢は極めて不十分なものと言わざるを得ない。付け加えるならば、外国勢が圧倒的にロシアを席巻した食品産業でも日本の顔が見えないことである。その他の消費物資、サービス産業においても同様である。先日、関西経済連合会が始めてロシアにミッションを派遣し、ロシアの現状を視察して帰ったが、これが関西とロシアを結ぶきっかけになることを切望する。こうした地域ごとのミッションの交流は環日本海の諸地域では早くから実施をしており、相互の交流も相互理解も相対的ながらかなり進展していると言える。その意味では多くのビジネス材料は極東方面においてポテンシャルが高いと言えるが、内容的には多様の問題を内包しており、なかなか動きが広がらないのは残念なことである。

このように分野ごとの分析と現状を客観視すると、依然として日ロ間の経済関係にはやはり何かが不足している感を拭えない。勿論、個別に分析して両国間のビジネスを鋭意推進していく努力を否定するものではない。しかし、両国が隣国であることを考えると、アイテムや分野に検討を試みることと並行して、総合的に不足しているものが両国にある。過去の政治諸問題を含む不幸な精神的バリアを克服する努力とエネルギーとでも言おうか。何故、欧米諸国や韓国が日本を差し置いて、率先してロシア市場に入ってきているのか。1990年代の前半における日本側の理屈付けとして、米国や韓国の場合は日本と異なり、ソ連時代から引きずる負の遺産の縛り(未回収債権)が無いという言い方もあった。ヨーロッパについては、万一ロシアの経済が崩壊した時に大量の難民の流入を危惧するヨーロッパからの支援は当然であると言う見方もあった。しかし今まだこうした意識でいるとしたら、何もしないための言い訳を通り越してアナクロニズムの恥を曝すに過ぎない。

世界の潮流はその後大きく変化し、就中(なかんずく)、9.11テロ事件以降の世界の政治的地図は変わった。ロシア自身もプーチン政権発足以降、強力な制度改革を推進している。法人税を36%から24%に減らし、所得税を一律13%とし、土地売買を可能としたなどはほんの一例である。勿論、改革のスピードが遅いとか、いまだに新オリガルヒー(新興財閥)からの一定の政治圧力から脱していないとか、汚職を徹底的に排除する姿勢が見えないとか、マフィアを巻き込む政治、経済、報道界における血なまぐさい事件が続いているとか、マイナス面をあげれば枚挙に暇がない。だからと言って従来どおり隣国ロシアに対して何もしないで済むだろうか。

ロシアは、WTO加盟に向けて必死の努力をしているところである。これらはロシアに大きな痛みを強いるものとなるが、敢えて挑戦する姿勢は評価に値する。仮に日本がこうしたことにも無頓着で従来のロシア観を引きずり、現状のままの姿勢を継続するならば、日ロの貿易関係は冒頭に掲げた統計のまま今後とも閉塞感を見せたまま推移する危険性を孕むことは論を待たない。

以上、いささか今後の改善の具体論を欠く記述となってしまったが、紙面の都合上、今回はここで筆を置くことにする。多少のヒントは上述したが、機会があれば、具体的な施策について私見を述べてみたいと考えている。

以上