8月のピョンヤン

|朝鮮半島

7月末から8月末にかけて約一ヶ月間、金日成綜合大学や社会科学院の研究者との学術交流のため朝鮮民主主義人民共和国を訪問した。朝鮮半島の核問題をめぐり国際情勢がいつになく緊張した時期ではあったが、建国55周年を目前にしたピョンヤンの表情は平穏で安定していたし、とくに経済活動は活気を帯びていた。

すでに報道されたように3月から区域ごとの「市場」が公に奨励されている。農民だけではなく都市の勤労者も参入し、農産物だけではなく工業製品も扱われている現状を反映して「農民市場」の名称を「市場」に変更し、それを区域の人民委員会の商業担当部署が管理しているという。「ピョンチョン(ピョンヤン市の一行政区域名)市場」を見学することができたが、夕方の5時を回っていたせいか、主婦はもちろん職場帰りの労働者や事務員、大学生などで立錐の余地のない賑わいであった。もちろん値段は市場価格で、国営商店の数倍はしたが、区画が整理された露天に、米や食肉、調味料、惣菜のような食料品をはじめ衣料品、生活雑貨、工具や文房具など、「ない物がない」ほど種類の豊富な商品が並べられていた。「統一通り」には全国各地の市場のモデルとして駐車場を備えた背の低い体育館のような施設がすでに建設され、現在、開業にむけて出店を募集中だという。

商店や食堂も賑わっていた。国営の食堂とともに数人の出資による協同組合形態の「合意制食堂」が人気を博していた。既存の国営食堂の店舗やその一画を借り、おもに焼肉や冷麺、「タンゴギ(朝鮮特有の犬料理)」などの料理と各種の酒類や清涼飲料を、外貨ではなく国内通貨で提供しているという。ピョンヤンホテルで宿泊したので、そのならびにある「合意制食堂」で何度か食事する機会があったが、常に超満員であった。以前は閑散としていた国営商店も活気を取り戻しつつあるようだった。市内の大通りに面した商店には豊富とは言えないまでも品物がならべられ、客の出入りも頻繁であった。近いうちには、国営商店が国家の流通ルートにより搬入される商品の販売だけではなく個人が持ちこむ商品も委託販売するようになり、ピョンヤン第一百貨店などの大規模店舗の各売り場をテナント貸しすることも検討されているという。

ホテル前の「栄光通り」をはじめ市内のいたるところでまず目に入ってくるのは道路と住宅の工事であった。道路と歩道の補修と、アパートを増改築しその外壁に新しいタイルを張り、窓枠を木や鉄から樹脂サッシに変える工事が進んでいた。ピョンヤン市では当面、4月からの「人民生活公債」による財政の大部分をこれらの工事に投入するという。

限られた範囲での見聞に過ぎないが、昨年7月の経済改革以降、社会主義体制を堅持しながらも経済の管理運営においては実利主義を徹底するという方針と、それに基づいて実施されている一連の措置が、徐々に効果を現しつつあることを垣間見ることができた。