「人民元切上げの動向」

|中国

人民元をめぐる国際情勢と中国の対応

昨今の切上げ圧力の背景には、①中国の高い経済成長率、②潤沢な外貨準備、約4,000億ドル(日本に次ぐ第二位)、③堅調な輸出入、貿易黒字維持、米国貿易赤字のうち、中国が最大、④外国からの直接投資の伸張、等大きく4つの要因がある。

人民元取引は、97年10月以降、対米ドルレートの取引レンジは8.2760元~8.2800元で実質的にドルペッグの下で安定固定しており、また人民元の為替先物市場が形成される条件が未整備である等、制約条件がある。

このような状況の中で、日本や米国を始め国際世論の中で元の切上げ圧力は依然として強いが、中国当局は、人民元レートの安定維持を是とし、一貫して切上げを否定している。また、中国の通貨安定政策が世界経済の安定的発展に寄与していると主張している。

切上げが及ぼす影響と市場の動向

大きな影響としては、プラス面では、輸出減輸入増となり貿易不均衡が是正される。マイナス面では、中国の輸出業に打撃となる等が考えられる。一方、既に市場は元切上げを織り込み始めている。例えば、最近香港市場のレッドチップ企業株が大きく上昇した。これは切上げにより中国企業の一株あたりの利益が外貨ベースで大きくなることを見越した動きとも言われている。松下グループも、変動を視野に入れ、手元資金を元建てにする等、準備を進めている。一方、視点を中国市場に向けてみると、元価値の高まりは、中国購買力の向上につながる。中国の最大の魅力は巨大な国内需要である。中国には潜在的な市場が限りなく広がっている。人民元切上げによるビジネスチャンスは大きい。

今後予想される動向

急拡大する経済実態から見ると人民元は過小評価されており、修正は必要である。ただ、過小評価の程度が相当大きくなっている為、短期間で調整しようとすれば、急激に大幅に上昇し、中国経済に深刻な影響を与える可能性がある。従い、漸次変動幅を拡大していく方法、つまり現在0.3%と極端に狭められている対ドル変動幅を拡大するというのが現実的な対応となろう。実際、数%程度切上がるだけであれば、影響は為替変動の範疇に過ぎないと言える。

中国当局は、将来の人民元のハードカレンシー化を視野に入れ、その準備段階として、中国政府は「人民元を切上げるべきか」ではなく、「どのような為替管理体制、制度が望ましいか」という点に腐心していると考えられる。中国の為替制度変更の制約条件として、最大のネックは脆弱な金融システムである。国有商業銀行の不良債権問題の解決、資本取引規制の緩和等が大きな課題であり、これらの解決なくして自由な通貨取引は実現しえない。また、中国が外圧に屈する形で政策を変更することは現実的に考えにくい。しかし、昨今、増値税還付率引下げ(過度の輸出奨励からの転換)や輸入関税率の引下げ(輸入奨励)等の動きもあり、政府は切上げ圧力を緩和する政策を次々と打ち出しており、切上げ圧力緩和を図っているのも事実である。

最も望ましいシナリオは、中国が輸入関税を引き下げ、又輸入に関する非関税障壁の撤廃に動き、輸入許認可での透明性、公平性、明朗性をグローバルなレベルまで引き上げ、その結果として輸入が増え、貿易黒字幅が縮小のトレンドを示すことである。このトレンドが見え始める一方で、徐々に為替変動幅を拡大する、この二つが同時進行すれば、中国・国内でも又、国際的にも最も混乱が少なく、より秩序だった世界貿易の発展ができるのではないか。

しかし、中長期的にみた人民元の上昇トレンドは間違いない。人民元が切り上がった場合、輸出業を中心に中国産業界に一時的な混乱をきたすことも予想されるが、今の中国経済には更なる成長の潜在力が充分にあり、世界経済への影響力を引き続き持つのは間違いない。