ロシアにおける新潟からのビジネス展開について

|ロシア

今号では新潟県からロシア市場における具体的なビジネスの展開について私見を述べてみたい。その前に若干の前置きをご容赦いただきたい。

現在、私はモスクワに在住している。そのお陰でロシアの政治、経済の動きについては殆どリアルタイムで知り、肌で感じることもできるし、更にロシアの日刊紙、週刊誌、月刊誌等を通じて識者や一般国民の考え方や反応を把握することができる立場にある(ただし、どの程度その立場を活用できているか若干心もとない点もあるが)。

その意味で、ビジネス情報発信基地として可能な限り機能したいと考えている。特に経済分野では、マクロの視点からの分析はさておいて、ビジネスの前線でのヴィヴィッドな挙動、真の姿を日本のビジネス界に正しく知って欲しいと願っている。過去、現在、ロシアで活躍して来られた方々は例外として、ロシア経済の現状について、日本のメディアの編集部というフィルターを通した情報を殆ど無意識のうちに金科玉条の如く頑なに信じて、ロシア経済はまだ取り組むには早いと考えている人たちは非常に多く、そうしたビジネスマンにはよほどの意識改革をしない限り、その他の情報は所詮無意味な活字の羅列に過ぎない。

まして、ロシアと言っても1,700万平方kmという世界一の面積を持つ国であり、その中にはこれが本当に同じ国かと信じ難いほどに地域によって様相が異なる。一部を見てロシアを知ったと思うのは、象の尻尾を触って象を判断する喩えの如く間違いをおかす危険性が高い。

本題に入ろう。私が勤務している日本センターはモスクワにある。モスクワにおける経済は、決してロシアの各地域の経済を代表していない。それどころか、極めつけの特殊な地域と言ったほうが早い。しかしながらロシア経済の状況を知ろうとする時にモスクワを見ないことは大きな間違いである。モスクワ以外の特定の地域がどんな特質を持とうが、ロシア経済および貿易はモスクワのそれに左右され、また平均化されてしまう部分が大きいからである。

さて、ロシア経済は今どうなっていて、その中で日本のビジネス界がどのような挙動を示しているか簡単に概観してみよう。依然としてロシアの経済は堅調そのものである。今年上半期の結果(以下前年同期比・半年通算ベース)でみると、GDP7.0%上昇、インフレ率7.9%上昇(過去はじめて一桁に収まる)、可処分所得14.7%上昇(過去始めて二桁上昇)など、殆どの指標において順調に推移している。これ以上は、限られた紙面を公表済みのマクロデータの羅列で無駄にしたくない。ただ言える事は、下半期に入ってからも順調に推移し、殆どの年間予測数値を上昇修正したことである。今年の6月にECと米国が相次いでロシアを市場経済国として認知する旨のアナウンスをした。格付け機関のムーディーズも、今年の10月はじめには2ノッチ上げて投資適格国と認定した。WTOへの加盟では、エネルギー価格の内外格差の問題を除いて大筋で交渉が進み、ロシアとEUは首脳会談の結果、ロシアが2004年末までにWTOに加盟することは可能であるとの共同声明を発出するに至った。あとは、着実に交渉を続け問題を一つずつ潰していくのみである。

しかし、そうした肯定的要素は遥か以前から見え始めていた。そして、ロシア市場のビジネスの前線では、欧米諸国と韓国を中心に激烈な市場獲得合戦が展開されてきた。中国は別な角度から、欧米品に競合しない低価格を武器に、着実にロシア市場で地歩を拡大してきた。寂しいことに、独り顔が見えないのは日本である。

ところが、ここにいま異変が起こりつつある。今年になって、その日本の様子が少し違ってきた。日本で兼ねてより地道にロシアを研究してきた個別企業が愈々動き出したのである。独自の決定でロシアへの進出に踏み切るところが増えてきた。だが、その大半は東京に本社を置く大手企業である。

こうした状況について、わかりやすい例を挙げるとすれば、モスクワにおける日本商工会のメンバー会社が、今、急激に増えつつある事実であろう。嘗て1995年(当時は水曜会)には40社程度しか加盟していなかったが、現在では74社に増えている。特に今年に入ってからの伸びが著しい。8月には65社であったものが、その後一挙に9社増えた。この調子でいくと三桁になるのも時間の問題である。勿論米国の800社にははるかに及ぶべくもないが、長年にわたって日本の超慎重姿勢を見てきた関係者にとっては、まさに隔世の感がある。

かくの如く漸くにして日本からロシアを見る目が少し違ってきた。それも、過去、ソ連・ロシア貿易において機関車の役割を果たしてきた商社は、今や一歩後方に下がって、その機関車はメーカーにバトンタッチしている。

欧米韓に比して遅きに失している感は否めないが、とにかく、現状を『非常に慎重に』分析した結果、肯定的な判断に至り、漸く本格的にロシア市場に目を向けるメーカーが増えてきたことは日ロ貿易に少し陽が差してきたと見てよい。

さて、ロシアに7箇所ある日本センターは、長年にわたって、本来の役割である『ロシアの市場化支援のための知的支援』を目的として事業を継続してきた。その努力と成果はロシア側からも高く評価を受けるに至っている。既述の通り、ロシアの市場経済は順調に伸び、成功が更に西側からの高い評価を引き出し、資本投下にも加速度がつき始めた。そうした中で、日本センターがロシア企業の経営に関するセミナーや訪日研修による経営者教育の更にレベルアップした教育を施すことも継続が必要だが、実際の日ロ貿易の低迷と日中貿易の格差の拡大を見るとき(日ロ貿易は2002年現在、日中貿易の24分の1)、原因は別として、これ以上事態を断じて座視することはできない。日本センターにも自ずと方針の転換が迫られてしかるべきである。センター設立の本来の目的がロシアに対する市場化促進支援と同時に、日ロ経済関係の活性化にあるなら、今まではともかくとして、今後はセミナーや講座による一方通行的な知的支援だけでは不十分となる。少なくともその使命は果たしきれない。存在価値も十分発揮されない。

こうした背景の変化を予知しつつ、外務省主導のもとに会議を重ねた結果、今年4月1日から、日本センターは『ビジネスマッチング』という新しい領域に足を踏み入れた。これまでビジネス講座や訪日研修で蓄積されたロシア企業経営者や中間管理職という人材のグループ(訪日研修生同窓会として独立した活動をしている)との連携プレイのもとに、日ロ貿易を推進する役割を自らに課した。

ところで、過去においてもロシア市場でのビジネスの成功を確信して資金を投じた日本企業の先駆者達は、決して少なかったわけではない。しかし残念なことに、成功例よりも失敗例の方が広く知られるところとなり、大事な日ロ貿易の燭光期において、日本ビジネス界に強い警戒感と嫌気ムードを煽る結果につながったことは否めない。しかも、その後においても長い影を落とす事になった。失敗の理由は千差万別であるが、纏めて括弧にくくれば、私見ながら80%は当時ロシア側の投資受け入れ環境の準備不足、つまり時期尚早であったということであり、異論はあろうが、残りの20%には日本側によるパートナーの選別において間違いがあったと考えている。今、投資環境そのものはムーディーズの評価を持ち出すまでも無く大幅に改善されている(勿論、依然としてなくならない汚職の氾濫や、ユーコス事件に見る政治リスクなど、問題の枚挙には事欠かないが)。

さて、日本センターによって教育を受け更に訪日研修を受けて、単にマーケティングや品質管理などの市場経済制度におけるビジネスの基本はもとより、企業間の信用と顧客の満足が企業の生き残りと成功をもたらすことを学び、加えて日本シンパになってくれた企業経営者のリストは、我々にとって貴重な財産であり、今後、極めて貴重な役割を果たすことができると信じている。彼らは訪日研修後、ロシアの経営者養成委員会同窓会メンバーとなり、同時に各日本センターの同窓会メンバーでもある。こうした企業リストにはそうしたいかがわしいパートナーは居ない。

先日、久々に新潟市に出張する機会を得た。篠田市長をはじめとして、鈴木総務局国際文化部長、能登谷国際課長、尾崎産業経済局商工労働部長らとそれぞれ個別の面談の機会を得た。また県庁の当該部や、ERINAなどの団体、JSN社などの個別企業とも面談の機会を得た。ERINAについては、生憎吉田理事長がご出張中でありお会いできなかったが、笹川専務理事など多くの方々より貴重な情報を頂くとともに今後の展開について話し合うことができた。

面談の目的は新潟の各種産業をロシア市場に紹介し、現地生産の可能性も含む架け橋としてお役に立てる部分を模索し、協力できる部分について意見交換することであった。申すまでもないが、新潟は国際的に通用する多くの産業を抱えている。その中でロシア極東部とはすでに大分以前から着実に取引を推進している。中にはハバロフスク、ウラジオストクの日本センターが積極的に仲介を行っているものも少なくない。

私は、それらと並行して、新潟の企業がロシアの西部地域(ウラルより西、通称=欧ロ部)に対してビジネス展開を一日も早くスタートすべきであると思っている。モスクワの人口と一人当たりの購買力を単純に積算するだけでも、そのスケールと可能性は想像に難くない。実際、モスクワの最近の経済力と対外取引の安定度は注目に値する。

しかし現時点では、今回の出張でも確認されたことだが、新潟からは本格的に欧ロ部へのトライが殆ど為されていない。従って、まずモスクワ、サンクトペテルブルグにビジネスミッションを派遣するよう検討を依頼申し上げた次第である。

勿論、一度の訪莫でビジネスが軌道に乗るとは考えていない。まず市場調査から入ることである。特定の業界のロシア市場の動向などについて事前に調べておくべき事項があれば、モスクワ、サンクトペテルブルグ等の日本センターは一定の調査を行うこともできる。また、必要に応じてJETROやロシア東欧貿易会とも連携することも可能である。その基盤もできつつある。

すでに頂いた具体的なアイディアや、モスクワへの帰任後展開を始めた活動の詳細については省略するが、いろいろなビジネスの展開の可能性があると確信するに至った。

日中貿易も多少陰りが見え始めた現状、漸く安定してきたロシア市場への食い込みを真剣に考えるには、今が潮時であろう。

最後に紙面を借りて、貴重な時間を割いていただいた篠田市長、鈴木部長をはじめとする多くの方々、また短時間の出張の間に多くのアポイントのアレンジをいただいた須田寛子様には心よりお礼を申し上げたい。