日ロ交流の〝ダム〟

|ロシア

味覚観光都市宣言している北海道根室市、北海の幸の宝庫でもあり日本の台所と言っても過言ではない朝日に一番近い街にある根室花咲港は、まさにロシアとの交易の拠点のひとつです。

そして根室市が持つもう一つの大切な側面は、日本固有の領土である国後島、択捉島、色丹島、歯舞群島の元島民一世、二世、三世が多く住んでいる北方領土返還要求運動原点の地である事です。北海道の大自然に囲まれ、水産業を基幹産業としてロシアとの経済交流が盛んに行われていると同時に、国の尊厳、国益の問題でもあり日本人のアイデンティティーの問題とも言えよう北方領土問題原点の地、すなわち今後の日露友好の進展を考える上で避けては通れぬ、両国間の懸案課題のお膝元と言う2つの両極端とも思われがちな顔を持つのが、道東の根室市です。

2003年1月にモスクワにて、小泉首相とプーチン大統領との間で、今後の日露関係の海図とも称される「日露行動計画」が締結されました。政治対話の深化、平和条約交渉、国際舞台における協力、貿易経済分野における協力、防衛・治安分野における関係の発展、文化・国民間交流の進展という6つの柱からなるものは、まさに今後の日露関係を正常化かつ互恵的な友好関係の構築を推進する上での基本コンセプトと理解すべきなのでしょう。さすれば、民間レベルでの多分野における相互交流を推進し、相互理解、相互利益のベースを築きながら、同時並行的にこの領土問題の解決をはかり、平和条約の締結を実現する事が望ましい、そうする事が進むべき方向だと両国政府が認識しているという証でしょう。

このことは、まさに北海道の根室市が置かれている状況に大きく関係する要素があります。協調と対立、経済交流と政治対話、そしてそれらの土台には民間外交というベースがあると言うまさに日露の国家間の現況の縮小版が、ここ根室なのだと感じざるをえません。

昨年9月、(社)日本青年会議所の主催するロシアミッションに参加し、モスクワ、サンクトペテルブルグに日本の大学生を伴い日ロ交流の推進を目的としたボランタリー活動に参加した際に、ロシア側の興味の対象は経済交流や国際分野における協調がほとんどであり、領土問題の存在と歴史的事実について知っているロシア人は非常に少ないことに気づきました。私は会議の席にて、日露の関係をダムに例えました。ダムの貯水湖を両国が将来享受出来るだろう多くの国益に例え、しかしながら、ダムの放水用の穴には領土問題という歴史が生んだ負の遺産ががっちりとした栓として詰まっており、未来の真の友好と言える水はまだ大量に保管されたままである、そのポテンシャルは計り知れ無く、ひいては、アジアの一員でもあるロシアが日本と共に国際社会に大きく貢献できる大きなパワーを秘めているのではないでしょうか、ですからこの領土問題の早期解決こそが、まさに両国の国益に連動するものと確信していると言う旨の意見を、地元根室の一市民として発言させていただきました。具体的に、北海道とサハリンの交流やサハリンの油田開発への日本政府や企業の取り組みの現況、元島民が抱えている切実なる望郷の念なども含めて、私の知る限り、私なりの意見を言わせていただきました。

混沌とした日露関係が、この10年で大きく変革されてはきましたが、未だに核心に触れずにいます。我々民間企業、特に中小企業レベル、または個人レベルにおいては、お互いが歩み寄り、努力した分だけ成果として目に見える形になるケースがほとんどになってきています。

かなり極端な意見を言わせていただきますと、領土問題を解決して平和条約を締結し、互恵的経済交流が形になり、日本がロシアも一目置く国際社会におけるパートナー国として認識されてこそ、日本人が国際人としてのアイデンティティーを持った国民、日本政府が国際社会で重要な役割を果たせる国家に成りえる様な気がします。それは結果としてそうなるのではなく、そう言った器のある存在に成り得るだけのポテンシャルを持っている証とも言えるのではないでしょうか。

先月、ロシアのカムチャッツカ州より、商工会議所の副会頭を始め、民間の大手水産会社の役員団が根室市を訪れ、根室市の行政、水産協会、商工会議所、民間企業との会談が実現されました。より具体的に、魚の魚種にまで限定した積極的な会話が長時間に渡り建設的に行われたと聞いています。今後の進展が期待されます。

私は、今後の展開として取締りを中心とした規制の枠組みをどうするかの議論よりも、広く今後の日露関係の友好の進展と領土問題の解決と言うビジョンのベクトルを曲げることなく、両国の国益に合致した互恵的関係を構築するためにも、いかに経済交流、文化・人的交流という民間外交のあり方をより積極的に創造していくかが重要であると考えます。

そして以上の視点から総合的に判断しても、2つの側面を持つ北海道の根室市を始め、経済交流のみの推進に拍車が掛かる稚内市、観光や貿易など色々な要素を持つ小樽市、函館市など、既にロシアとの交流が盛んに行われ、それぞれの地域経済そのものに深く関係を持つ地域を、より有効的かつ効率的に日本政府が活用していく事が重要であり、国と地方自治体そして民間企業のコラボレーション、協働活動こそが今後の対ロシア外交には必要不可欠ではないでしょうか。