韓国の同時多発的なFTA政策

|朝鮮半島

2004年4月に韓・チリFTAを発効させた後、韓国政府は同時多発的(Multi track)なFTAの推進に取組んでいる。現在政府は、日本、ASEAN、ヨーロッパ自由貿易連合(EFTA)など主要20カ国とのFTAを同時多発的に進めている。

同時多発的なFTA推進には、いくつかのメリットがある。まず、同時多発的なFTAの推進戦略は、それまで停滞していたFTA締結の動きを加速させ、世界的なFTA拡散の趨勢に伴う韓国企業らの機会費用を節約することができる。そして、同時多発的なFTAの推進は、短期的には貿易赤字が予想されるFTAの場合でも、貿易黒字が予想されるFTAと同時進行することで貿易赤字を緩和させ、協定相手国から積極的態度を引き出すことができるとともに、FTA協定のモメンタムの維持及び協定人力の専門性向上等のメリットがある。さらに同時多発的な協定はFTAの否定的効果を相殺することができる。これはいくつかのFTAを同時多発的に進め、発効させることで、各FTAごとに異なる効果が相殺されるということを意味している。例えば、韓国が貿易赤字の傾向にある日本とのFTAを、貿易黒字の傾向にあるASEANとのFTAと同時に進行させれば、韓・日FTAにおいて問題視され得る短期的な貿易収支赤字の拡大という懸念を一部相殺できるであろう。

韓国政府は、FTA締結の効果を最大化するために、商品分野だけでなく、サービス、投資、政府調達、知的財産権、技術標準、相互認定、競争、協力等を含んだ包括的な内容のFTAを志向している。高い水準のFTA推進を志向することで多者主義を補完しつつ、FTAを通じて国内制度の改善および先進化を図ろうとするのである。韓・チリFTAの場合も商品、サービス、投資、競争、政府調達、知識財産権をすべて包括しており、市場接近への譲歩案は農業を含む全産業を自由化の対象とし、韓・チリ両国は品目数を基準にした各々96%に該当する品目の輸入関税を10年以内に撤廃することにしている。

2004年4月に締結された韓・チリFTAはスムーズに定着しているように思える。協定の発効前は韓国の農業界から反対の声が高かったが、協定発効後の1年を振り返ってみると、それほどの被害はないだろうという当初の予想が当ったことになる。過去1年間の韓・チリ間の交易は、55%の増加をみせており、これは韓国の対世界交易増加率の25%よりも2倍高い実績である。

政府の同時多発的なFTA推進を成功させるには、国民的支持を得なければならない。韓国のFTAの推進過程では、農業のような脆弱な産業は強力に反対する立場をとり、またFTA推進を支持する階層もそれほど多くなかった。全経連、貿易協会等の一部の製造業団体がFTA推進を支持したものの、農業界の反対に比べると、彼らの主張は相対的に弱いものであった。特に、日本とのFTAに関しては、民主労総等の労働団体が反対している。労働界の立場が協定に反映されるよう政府の努力とともに、FTAの支持基盤を確保していくことが、FTA推進政策の成功にとって重要であると考えられる。

一方で、韓国を含む東アジア地域では、貿易自由化に対する消費者団体の支持があまりない。

FTAと貿易自由化の最大の恩恵者は実は消費者である。FTA政策推進の必要性に対する国民の認識は徐々に改善されているものの、FTAの恩恵を受ける層の支持が弱く、政府が政策推進に求心力を得ていない。つまり、多数の大衆の利益になることから、誰一人声を発することなく、損失を被る少数の被害者を中心に反対の声が高まる。いわゆる、“多数の沈黙、少数の抗議(Majority Silence, Minority Noise)”の現象の現れである。しかし、それまで幾度か進めた韓国の貿易自由化措置により、消費者は良質かつ安価な製品を買うことが可能になった。また輸入品と競争せざるをえない状況下で、企業は品質改善及びコスト節約への努力をより一層強め、その結果、産業の国際競争力が改善された。一例として、1980年代の菓子類に対する対外開放を実施するなり、韓国業界は外国企業との競争に敗れ、倒産する企業が続出するのではと憂慮していたが、競争から生き残りをかけた業界の努力により、今日の製菓産業は高い競争力を備えた輸出産業として発展したのである。時期を同じくして自由化された電気・電子産業は、世界的な多国籍企業として成長し、もはや消費者は外国製の電子製品を求めなくなった。

そして、FTAにより利益が出る企業らはFTA政策支持の拡散に努力する必要がある。例えば、業種別の協会や団体を通じて、FTA推進の必要性を国民に体系的に広報しなければならない。政府もまたFTA推進への政策方向を国民に知らせると同時に、被害産業への対策を樹立すべきである。ただし、チリとのFTAの時のように、原則なしに被害農民に補償するというよりは、産業の構造調整や社会安全網の確保のための予算の比重を拡大していくべきであろう。

世界経済が統合されつつある現時点において、対外開放は‘選択’ではなく‘生存’の問題であることを国民は認識すべきである。対外経済規模が国内総生産(GDP)の70%を占める韓国では、対外開放と改革を通じて名実ともに先進通商国家として発展していくことが、経済成長の動力になるだろう。それ故、FTAは国民所得2万ドル達成と北東アジアのビジネスハーブ構築という2つの目的のためにも必要である。対外開放はWTOのような多国間協定を通しても達成可能であるが、多国間協定には150カ国余りが参加することから妥結に長い時間が所要される。多国間協定を補完しつつ、利害関係が一致する国とFTAを推進すべきである。FTA協定は国内の状況と必要に応じて相手国を選ぶことができ、また対外開放速度を調節することができる等、多国間協定より有利な側面がある。FTAを通じての競争促進の強化、戦略的提携の拡大等で早急に経済体質を改善し、競争力を高めないと、ますます深化する技術競争時代に取り残されることになるだろう。