大局に立ち冷静に中国を見つめよう

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最近書店に行ってアジア関係のコーナーを見ると、感情的な「反中国もの」が溢れている。たしかに4月の「反日デモ」の嵐は多くの日本人にとって衝撃だった。もちろん中国は「中国の理屈」で日本への苛立ちを爆発させたのだが、日本人は「日本の理屈」でそれを受けとめ理解できず、相互不信を増幅させている。他方で「肥大化する中国」への動揺が大きい。改革開放路線を推進して四半世紀が過ぎ、中国の総合国力は大きく増大した。しかしそれが衝撃的でもある。不安と期待の相半ばする対中心理の中で、「靖国参拝問題」をめぐり5月23日、来日していた呉儀副首相の小泉総理会見ドタキャン事件が起こった。中国の傲慢さには嫌気がさした、といった声が高まっている。しかし、巨大な中国の隣りから引越はできない。関係は深まっていくばかりである。冷静になって中国の実情を理解することも必要である。

中国をどのように考えるか。中国の現在は、確かに景気のいい話が多い。まず、マクロの経済力は、GDPが1980年にわずか約3,000億ドルであったが、2003年で1兆4,090億ドル、04年は1兆6,400億ドルと急増し、05年も高成長持続の傾向にある。対中直接投資は実行ベースで03年535億ドル、04年606億ドルと増加の一途をたどり、投資受入国として米国を抜いて世界第1位となった。日中貿易では、04年の貿易総額は1,680億ドル(前年比27%増)、6年連続で史上最高を更新した。日本の対中貿易依存度も増大し、昨年、対中国・香港貿易だけで日本の貿易総額の20.1%、対米貿易(18.6%)を超えるまでになった。さらに軍事力も、1991年(62億ドル)以来前年比2ケタ台の増加を続け、04年には経常予算の上では255億ドルに、西側専門家の分析では実際には500億~700億ドルと言われ米に次いで世界第2位の規模といわれる。

こうした成長・膨張トレンドは、少なくとも08年の北京オリンピック、10年の上海万博あたりまで続くだろう。しかし、ここに来て中国経済の先行きを懸念する論調も着実に増えている。例えばCLAS首席経済学者ジム・ワーカーは、専門技術者と中間管理職の不足、労働力コストの値上がり、銀行システムの悪化などは経済失速の前触れだと指摘し、その上で「中国経済は2007年、低迷期に突入するだろう」と厳しい予測を行っている。中国の著名な経済学者・樊鋼も、「中国経済は巡航速度を保って成長していけるかどうか、重要なタイミングにさしかかっている」と楽観論的な見通しに警告を発している。

こうした経済成長慎重論のほかに、貧富の格差、腐敗、失業などが一段と深刻化している。04年に汚職で検挙された公務員が当局発表でもなんと4万3,757人(一日当たり約120人)に、収賄・横領の額が100万元(1,300万円)を超える事件は1,275件で前年比4.9%増となり、汚職の深刻化と大規模化が進んでいる。また政府直轄管理の大型国有企業181社で、株式化に伴う国有資産の不正流出額4,100億元(約5兆3,300億円)と膨大な数が明らかにされた。こうした厳しい社会矛盾を反映してか、最近の報道では、多くの民衆の不満が蓄積し、しばしばデモやストライキ、暴動に発展しているというニュースが流れてくる。私は以前から「中国の発展はものすごいが、それは痛みを伴い、血を流しながらの発展である」と言い続けてきた。そして、その痛みや出血が大きくなりしっかりとした手当てをしなければ前に進めなくなる状況が近づいてきたように見える。

もちろん中国自身の自助努力が最大のポイントである。今年の全人代会議(国会に相当)での温家宝「政府報告」のキーワードが「和諧社会」(調和バランスの取れた社会)であったことは、その方向性を明確にしたものである。しかしそのためには貧富の格差構造にメスを入れ、成長から福祉へ流れるような再配分メカニズムを構築せねばならない。これには相当の抵抗が予想される。何よりも共産党幹部自身が「甘い汁」を吸う構造の改革=民主化が求められる。さらに再投資を生産優先から社会充実優先に向かわせねばならず、成長鈍化は必至であり、鈍化は失業者を増やす。環境・エネルギー問題はどうする。社会不満、社会不安は今以上に高まるだろう。しかし独裁体制の強化だけでは、一時的な安定はあっても長期的には悪循環に陥る。

こうした数々の難題を考えるとき、中国は構造的にもはや国際社会との協調、協力を断っては生きていけない。対外貿易依存度も60%を超え、外資も経済成長を牽引している。環境・エネルギーも外国との共同、協力なしには解決不可能である。税制度、金融制度の改革は無論、民主化へのソフトランディングも海外との協力抜きには考えられない。鄧小平が示した富強中国のプランから、さらに「和諧社会中国」の建設が求められるようになってきた。中国自身が実はもがき苦しんでいるのである。いま日中間で必要なことは、冷静に問題に対処できる雰囲気を醸成し、「相互誤解」を減少させ、「相互不信」の連鎖を断ち、問題処理メカニズムを構築することであろう。この隣りの大国とどううまく付き合っていくか、日本の行方を左右する最大の問題でもあるのだ。