中国の特殊性は地域研究の方法論を導き出す道標となり得るか

|中国

2001年12月にWTOに加盟するなど、中国においては市場経済化が進みつつある。WTO加盟から3年以内に貿易の自由化を認めるという加盟時の約束は、2004年7月施行の対外貿易法の改正によって、期限前倒しで実現された。しかし、一部の農産物や鉱産物などのような国民経済に大きな影響を及ぼすことが予想される重要産品については例外とされ、国家貿易産品として輸入許可証管理と指定経営管理制度により、政府が依然として厳格に管理している。

その国家貿易産品のひとつである石炭輸出を例にとってみると、輸出窓口は、中国中煤能源集団公司、神華集団公司、山西省煤炭公司、五金鉱産公司の4社にのみに輸出権が与えられており、他の企業の参入が認められていない。また、毎年の輸出数量が国家発展改革委員会によって発表され、過去の実績やその他の情勢を踏まえて、輸出権を有するその4社にそれぞれ輸出数量が割当てられる。ちなみに、2005年の輸出数量は8,000万トンである。従来、中国において石炭輸出は、資源の優位性を活かし、また外貨獲得を目的として拡大する方向にあった。しかし、ここ数年の経済成長に伴う深刻なエネルギー不足によって、輸出が政策的に抑えられる傾向にある。

WTO加盟によって貿易の自由化が進展したとはいえ、このように未だ政府が経済活動に大きく関与する部分があるために、企業同士による純粋なコマーシャルベースでの取引という次元では解決できない問題も多く生じている。政治が経済をコントロールしてきた中国の特殊性は今でも一部で強く残っている。この特殊性は石炭貿易に限られたことではなく、最近、実施された人民元切上にもみられるところである。中国ビジネスは、こうした現実を踏まえた上で展開しなければならない難しさがあることを認識しておかなければならない。

中国との経済交流や各種の経済活動は、このような特殊性があるために、これまでは政府が何らかの形で支援する中国専門の業界団体が窓口となって行われてきた。しかし、最近では、中国においても市場経済化が進み、各企業が独自のルートでビジネスを展開できる時代となったことから、こうした団体の役割は徐々に小さくなってきており、企業側のニーズにも変化が生じてきている。

時代の流れをみると、中国専門の業界団体自身も変わらなければ生き残れない時代を迎えている。経済界、産業界、関連業界などが何を望み、何を求めているのか、そして、それを解決するためには、中国側にどのようにアプローチすればよいのかなど、常に変化する日中双方の動向にアンテナを張って情報を掴み、自らの行うべき行動を決定し、実行していかなければならない。これまでのような特殊性をベースにした事業展開だけでは、存在価値が薄らいでいくことは否まない。

しかし、最初に述べたように中国の特殊性が依然として存在していることも事実である。中国においても経済のグローバル化やユビキタス社会が進展する中で、中国も世界の趨勢を睨み、戦略的な観点から積極的に変わろうとしている。ただ、経済が自由化したからといって、中国の特殊性は一朝一夕で変わるものではない。数千年の歴史のなかで培ってきた中国人の発想法や手法は、短時間で変わるものではない。そして、この中国の特殊性を最も理解できるのは、これまで中国人と直接向き合うなど実践的に中国を経験し、仕事や生活の中で中国そのものを肌で感じてきた「中国の専門家」であろう。

最近、表面的なデータや情報だけで中国を理解したと思う風潮があるようだが、中国はそんな簡単に理解できる国ではなく、これまで行われてきたような欧米諸国を分析するような手法がそのまま通ずるとは思えない。今流行りの国際関係論や地域研究論などの新たな研究分野は、これまでの方法論では回答を導き出すことが難しい問題について、分野を超えた学際的な発想から研究してみようと、欧米諸国において必然的に発生した学問分野であるが、こうした現象はデータ主義的な科学分析の手法に対する警告と捉えられなくもない。

中国研究の難しさは、データ主義的発想では理解できないところにある。経済、政治、社会を、それぞれの分野別の視点から捉えるのではなく、総合的な視点から捉えてこそ、中国の本質の一端が見えてくる。それは、基礎知識やデータ分析に加え、実践的な経験によって培われる研究の方法論であろう。こうした中国研究の手法が、未だにはっきりと見えぬ地域研究の方法論を導き出す手掛かりとなることを期待したい。