「先富論」を越えて「和諧社会」を目指す中国

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3月に開かれた全国人民代表大会で温家宝首相は、「和諧社会(調和のとれた社会)」の形成を強調した。最大の課題は、経済の発展とともに拡大した貧富の差の解消である。「和諧社会」の重視は、経済発展を最優先にしてきた中国が、新たな発展段階に差し掛かっていることを強く感じさせる。

アンバランスの功罪

「一部の地区、一部の人から先に豊かにする」という「先富論」に鄧小平氏が言及したのが1978年、それまでの平等ではあるが人々のやる気を引き出せない仕組みからの脱却であった。改革開放後の中国は、人々の豊かになろうとする意欲の高まりと大量に導入した外資によって、沿海部を中心に急速な経済発展を遂げた。その結果、2004年時点で名目GDPは1兆6500億ドル、貿易額も1兆1000億ドルを超える存在となった。

経済発展の過程で発生したアンバランスは使いようによっては“価値”もあり、中国はこれまでその点をうまく利用してきた。例えば「世界の工場」としての中国だが、支えてきたのは発展が遅れた内陸部から沿海部に供給されてきた労働力である。農村から低賃金の労働者が次から次へと沿海部の工場に供給され、賃金の上昇も比較的小さく押さえられてきた。しかし、これまで無尽蔵のように見えた内陸部の安価な労働力の供給に、最近では変調が見られるようになっている。

また消費面でも、中国の一人当たりのGDPは2004年で1250ドル程度だが、アンバランスな社会ゆえに平均値とはかけ離れた少数の富裕層が現れ、乗用車、高級マンション、海外旅行などの高額商品購入の主役となっている。都市部では、さらに豊かさの裾野が広がって中間層が生まれ、化粧品など高級品の消費を伸ばしている。一方、農村は消費市場として未発達で、カラーテレビを例に見ると都市部は100世帯あたり130台保有するのに対し農村部では2003年で68台にとどまっている。

経済発展が続いても格差は拡大こそすれ縮小せず、現在はアンバランスがもたらすマイナス面が深刻になっている。都市部と農村部での一人当たり純収入の格差は、1996年の2.51倍から2004年には3.21倍と拡大し、都市部に出稼ぎに行っても労働条件は厳しく福祉面で不利な扱いを受けるなど、農村部には不満がたまっている。

もう一段の発展のためにアンバランス是正

「和諧社会」の形成には農村部の所得引き上げが不可欠である。それは社会の安定に資するばかりでなく、個人消費の底辺を広げより安定した内需主導経済への転換を進めることにもなる。

2004年中国政府は農村経済の引き上げのため「三農(農業、農村、農民)問題」への取り組みを本格化した。その結果、食糧総生産は前年比9.0%増に転じ、生産目標4.55億tを達成した。農業収入だけでなく出稼ぎなどの非農業収入も増加したことと農業税の負担軽減で、農民の純収入は実質で6.8%と1997年来の高い伸びとなった。

「三農問題」への取り組みはまずまずのスタートであったが、都市と農村の格差の抜本的解決にはまだ程遠い。GDPの14.6%(2003年)を生み出すに過ぎない第一次産業に、就業人口の49.1%(同)が従事している構造自体に無理がある。農村から都市への人口移動も90年台半ばから毎年2000万人のペースで続き、2010年には第一次産業の就業人口は全体の4割まで低下するとも言われている。農村から都市への人口移動が進まなければアンバランスの解消は進まないが、速すぎれば都市部に新たな歪みを生み出す懸念もあり、舵取りは容易ではない。

来年から始まる第11次5カ年計画では、「和諧社会」構築のための取り組みに重点が置かれるであろう。「和諧社会」を目指して都市と農村の格差、資源利用効率の低さ、環境問題などの課題に取り組むことで、中国経済は一時的に減速する可能性もある。中国経済の減速は日本にも影響を及ぼそうが、中国が負の問題を解消して次の発展に向かえば日本経済にもプラスとなる。また、「和諧社会」実現の過程には生産現場のエネルギー利用効率改善、環境対策など日本企業が得意とする分野もあり、ビジネスチャンスを見出すこともできよう。

以上