ロシア経済動向に新しい特徴?

|ロシア

モスクワは今年は異常な暖冬だ。筆者がモスクワ駐在で迎える冬はこれで11回目だが、市内に雪がほとんどなく、モスクワ川も凍結しない、これほどの暖冬は初めてである。通常なら晴れた日は放射冷却で気温がずっと下がるのだが、昨日などは春めいた晴天だった。

さて、ロシア経済は2004年も高成長を続けた。2004年経済実績の政府公表数値はまだ手元にないが、昨年末時点での経済発展商務省での聞き取りによると、実質GDPの伸び率は6.8%。6年連続のプラス成長である。成長を引っ張ったのは輸出と個人消費、それに設備投資である。拡大する内需に応えて輸入も急増を続けた(下表参照)。

(下表)

ohashi

(出所)【資料】JETRO「通商弘報」2005年1月12日付

目に見えて旺盛なのは個人消費である。例えば自動車だが、当地業界紙によると2004年の外国企業ブランド乗用車の販売台数は前年比約80%増の40万台近くにのぼったと言う。米国のGM-アフトワズが約5万5,000台(前年比218%増)、韓国のヒュンダイが約5万1,000台(348%増)それぞれ売り上げて、メーカー1社の販売台数5万台のラインを超えた。ちなみにこの両社はいずれもロシア国内で組み立てを行っている。原油の輸出価格の高騰で、経常収支は568億ドルの黒字となった。外貨・金準備は年初の771億ドルから1,245億ドルまで積み上がった。国の会計の中で石油輸出の収入増加分を積み立てる安定化基金の残高も年初の1,060億ルーブル(約37億ドル)から5,223億ルーブル(約188億ドル)になった。

ただし、資源輸出収入の増大を背景に引き続き順調で目に見えて好調なロシア経済だが、昨年後半頃から新たな特徴が見られるようになってきた。石油の輸出価格が高騰し続けているのに、経済成長率にやや翳りが見えてきたことだ。2004年9月時点で6.9%とされていた同年の通年の経済成長率が6.8%と下方修正された。設備投資の伸びに翳りが見え始め、それだけが理由ではないが国内生産の伸びが見通しを下回った。他方、輸出のほか個人消費が伸び続け、内需を満たすために輸入が大幅に伸びた。

このような新しいトレンドに対し、プーチン大統領も12月23日の年末記者会見で「成長率の伸び悩みは今年下半期のロシア全国の経済における共通の特徴だった。これは懸念すべきことであり、特別の留意を要する」と述べている。

背景には、ユーコス事件に象徴される、プーチン政権の行き過ぎとも見られる強権的な一部財閥企業の抑圧、夏から秋にかけて連続的に発生したテロ事件への対処としての連邦構成体首長の直接選挙制の廃止など民主主義の後退とも見られる動き、ウクライナ大統領選挙戦を通じた欧米との立場の違いの露呈などが続き、それによってまずロシアの投資家が自国への投資を控えるようになってきたことがあると見られる。

こうした動きの今後の見通しについて、政府に近い経済専門家に訊くと、「制度や政治的ムードの一時的な変動による一時的な投資控えであり、変動が収まって新しいビジネス環境が投資家にとって明らかになれば、投資は数か月で戻ってくる。政府は減税や規制緩和などの政策を進めて投資し易い環境を作っていくことが大切だ」というような意見が返ってくる。他方、プーチン政権に距離を置く立場の専門家は「投資家はプーチン政権の強権的で物事を密室で決めていくような体質を見限ったため、投資はしばらくは帰って来ない」と語る。

昨年後半から見られるようになったこの新しい特徴が一時的なものかどうか、筆者としてはもう3ヶ月ほどデータを集積して経過を見てみないと見極めが難しい。

しかしながら、モスクワにいて感じるのは、日本企業の対露市場進出への関心の増進である。特に最近の日本企業からいただくご相談の中には、単に「ロシア市場で自社製品を売りたい」と言うことだけでなく、「ロシア市場へ製品を供給するうえで世界の中でロシアを位置付け直したい。現地での生産やR&Dの可能性を模索したい。ロシア国内で自社部材を供給する先となる製品生産企業との連携のあり方を検討したい。ロシア・CISを販売市場としてだけでなく素材の安定的供給源に近い生産立地先として見直したい」と言うような問題意識が含まれるところも増えてきた。

日本企業の中で、自社が長年掛けて構築してきたグローバルなネットワークとしての研究開発~部材調達~生産~販売・サービスというビジネスのプロセスにロシアを組み入れていく、という形でその企業がロシアに進出する動きがもし出て来るとすれば、日本企業がロシアをアジアやヨーロッパの国のように「普通の国」として受け入れ始めたことであり、それこそが実質的にロシア経済が世界経済に統合されていく過程を意味すると言えるのではないか。

モスクワにいてそのような予兆に触れる機会があるのはうれしいことであり、私どもとしても、こうした動きの促進に努めることが大切ではないかと思っている。