日本にガスパイプラインは必要か

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サハリン日本センター同窓会の会合の席で一つの質問を投げかけてみた。「当地大陸棚開発プロジェクトの内サハリン-1(S-1)とサハリン-2(S-2)の大きな違いは何か」。これに答えて曰く「S-2は地元経済に貢献しているが、S-1はそうでもない」。言い当てて妙である。

両者の最大の違いはガスの輸出に当たってその輸送方式にある。S-2は天然ガスを液化して輸送すべく今サハリン島南端に天然ガス液化工場を建設中である。つまりLNG方式だ。一方S-1はパイプラインを通して直接生ガスを日本へ輸送しようというパイプライン方式であるが、未だ実現の見通しさえ立っていない。天然ガス液化工場建設に多くの雇用を創出し、建設後も一定の従業員を確保できるLNG方式に比べて、ガスがサハリンを通過するだけのパイプライン方式はうまみが無いというのが同窓生の見方なのだろう。

ところで我々日本経済社会からするとこの二つの方式の考察はサハリン市民雇用問題とは比較にならないほど重要である。21世紀は気体エネルギー時代といわれ、人類が地球上に生き残る為にも従来の液体から気体つまり石油から天然ガスにシフトする方向は避けられない。どちらの方式が1)安く日本へガスを持ち込むことができ且つ2)合理的かということだ。

LNG方式は非常にコスト高と言われる。井戸から気体で噴出する天然ガスの最終需要はやはり気体として燃料に供される。それをわざわざ液化しそのために、莫大なコストをかけて液化工場、LNG輸送船、気化装置といったものを造る。LNGの最大の輸入国である日本はパイプライン方式のOECD諸国に比べて高価なガス、電気ということになる。それではガスパイプラインの方が安いかと言うと日本に関する限り明快には答えにくい。我が国特有の土地価格、各種規制が災いして地上を通せば決して安くない。海底を通せば漁業補償という計算不可能な問題が浮上してきてやはり高くつく。輸送手段建造コストという点では両者甲乙つけがたいようである。

合理性の観点から考察すると、パイプライン方式に軍配が上がるようだ。パイプラインには容易にアクセスできるという利便性から、工場がガスを引き込み自家発電することも可能、マイクロガスタービンや燃料電池の発達により中小企業や家庭でもパイプラインからガスを引き込む動きが出てくる。廃熱有効利用により省エネ対策にも通じる。既存の電力会社との間で価格競争原理が働き電気料金の低下を促す。

こう見てくると、ガスパイプライン方式にはエネルギファクターの相乗効果が期待されて悪くない。ただしこの方式は既存の地域独占体ともいえる、何々電力(株)、何々ガス(株)を直撃するのである。需要地から遠く離れた場所に建設された巨大な水力発電所、原子力発電所、それがため長距離送電ロスの発生、LNG輸入設備への大型投資。これら非効率で剛直な経営体質を維持してこれたのも地域独占の強みからである。彼等も彼らを行政指導してきた中央省庁も手放しではパイプライン化を歓迎しないに違いない。「LNG、非パイプライン」政策を推し進めたのは旧通産省であるからして容易に政策の転換は難しい。ここにも幹線パイプライン推進の壁がある。今夏当地を訪問したエネルギー庁の代表団に対し州政府はS-1のガスをどうするのか迫ったところ歯切れの良い回答が出なかったのもそういった事情にある。エクソンは日本向けをあきらめて中国へのパイプラインを考えている。そこまで行くと韓国へ届くのも時間の問題だ。韓国内は既にパイプライン網が完成している。そこへ安い天然ガスが導入されれば韓国産業界は更に力をつけてくる。

貿易立国の日本としては産業の米と言われるエネルギーコストを下げる努力は永遠の課題だ。認識はしているが一歩が踏み出せない。産業政策は理屈ではないということか。9月の初め、国土幹線ガスパイプライン建設促進議員連盟及び北日本パイプライン開発機構(JPDO)代表団が期せずして同時期当地を訪問してきた。日本にも草の根の推進運動が盛り上がりつつある。