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  • 東北振興政策推進のアクセルとなるか ――遼寧省が全力をあげる対外開放新戦略「五点一線」とは?

東北振興政策推進のアクセルとなるか ――遼寧省が全力をあげる対外開放新戦略「五点一線」とは?

|中国

1. 遼寧省の対外開放新戦略「五点一線」

遼寧省が第十一次五ヵ年規画の重点事業として打ち出している新対外開放戦略「五点一線」。4月上旬には、遼寧省副省長を団長とする代表団が訪日し、この「五点一線」戦略を日本で売り込み、沿海重点開発区への投資誘致活動を積極的に展開する予定だ。

その「五点一線」とは、一体どんな対外開放戦略なのだろうか。

「五点」とは、渤海沿海地域にある「大連長興島臨港工業区」、「遼寧(営口)沿海産業基地」、「遼西錦州湾沿海経済区」(錦州西海工業区と葫蘆島北港工業区)と、黄海沿海地域にある「遼寧丹東産業園区」、「大連庄河花園口工業園区」を指す。五つの開発区の開発計画面積は374.33平方キロメートル。初期開発に5年、段階を追って更に開発を進め、今後20年ほどの長期発展構想を練っている。

「一線」とは、この五つの沿海重点開発区をつなぐ全長1,443キロメートルの海浜道路(濱海路)を建設すること。6市、7県級市、4県、21区、大小25港湾、228の工業園区、133の観光スポットをつなぐ。総額59億元を投じ、2008年開通を目指す。

遼寧省では、この「五点一線」を東北旧工業基地振興政策推進の「アクセル」であり、対外開放拡大の「カギ」であると位置づけている。

遼寧省の武器は長い沿海地域を持ち、東北3省の輸出入の大部分を大連や営口、丹東などの港湾が担っていること。また、海岸線上には多くの砂浜や荒れた塩田が放置されており、これらが将来、「国際的産業移転地」や「新型工業開発区」に変身する可能性があると見込んでいる。現在、中国では土地管理が厳しく、耕地を工業用地に開発することはできない。「五点」のある地元政府指導者は、「塩田や砂浜であれば国の政策方針にも反さない」と自信を示した。中国南方に比べ、労働力コストが安く、電力にも余裕があるという売りもある。

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この戦略がもう一つ目論むのは「沿海部と内陸部が一体化した経済発展」。遼寧省の経済圏は大きく3つに分けられる。瀋陽を中心とした「遼寧中部都市群」i、大連を中心に丹東と営口の両翼を含む「遼東半島沿海経済区」、錦州を中心とした渤海沿岸の「遼西沿海経済区」。

「営口」は「遼寧中部都市群」の最短の出海口であり、「長興島」と「大連庄河花園口」はそれぞれ渤海と黄海の新しい対外開放拠点として、遼東半島の開放度を一層アップする可能性がある。「丹東」と「錦州」はそれぞれ、その背後に広がる内陸部(例えば、遼寧省内では経済発展で遅れをとっている遼西地域、またその奥に位置する内蒙古)の経済を引き上げる役目を果たす可能性がある。中国政府が提唱する「バランスのとれた経済・社会発展」という方針にもマッチする。海浜道路という交通インフラが整えば、物流や観光にも寄与する。

●「五点」の沿海重点開発区の特徴

大連長興島臨港工業区 15年以内に129.7平方キロメートルを開発。初期開発計画面積は50平方キロメートル。同島開発は、「大連北東アジアの重要な国際海運センター」建設構想に連動した開発計画。瀋陽-大連高速道路やハルビン-大連鉄道に隣接。深水港。設備製造業、造船、石油化学産業基地などの建設を計画。同島には原子力発電所建設計画も。
遼寧(営口)沿海産業基地 開発総面積120平方キロメートル。初期開発計画面積は20平方キロメートル。臨港工業や現代サービス業が発展の重点。営口港拡大計画。民営企業シェアが省内一高い。マグネシウム、紡績、アパレル、楽器などが強い。瀋陽、大連から160キロメートルの位置にある。
遼西錦州湾沿海経済区(錦州西海工業区+葫蘆島北港工業区) 錦州西海工業区22.76平方キロメートル、初期開発面積は20平方キロメートル。葫蘆島北港工業区21.87平方キロメートル、初期開発面積は16.87平方キロメートル。造船開発区、港湾に隣接した倉庫・物流園区、総合工業区、東山軽工業産業園を計画。石油化学工業産業チェーンの後続産業基地を建設し、遼西地域経済振興の期待がかかる。
遼寧丹東産業園区 開発総面積30平方キロメートル。初期開発面積は18.6平方キロメートル。
大連庄河花園口工業園区 開発総面積50平方キロメートル。初期開発面積は15平方キロメートル。

2. 「五点一線」が打ち出された背景

遼寧省で「五点一線」が打ち出された背景には当然、「東北振興政策」がある。2003年10月に東北振興政策の基本方針を示す「東北地区等旧工業基地振興戦略実施に関する若干の意見」(通称11号文件)が出されてから、遼寧省では「一つの中心、二大基地、三大産業」iiという新興戦略を打ち出した。中でも「大連東北アジアの重要な国際海運センター」建設を起爆剤に渤海湾沿岸地区を重点的に開発し、環渤海海浜道路を建設するという構想は早くから明記されていた。

東北振興政策が打ち出されて今年で3年目に入るが、現在まで、東北内陸部への外資系企業の投資は期待されたほどの成果が見られず、2005年6月、国務院弁公庁は「東北旧工業基地の対外開放の一層の拡大を促進することについての実施意見」(通称36号文件)を下達した。

遼寧省ではこれを受けて研究を重ね、2006年2月に「遼寧省人民政府・沿海重点発展区域の対外開放拡大を奨励することに関する若干の政策についての意見」を打ち出し、この中で「五つの沿海重点開発区」と「12条の優遇措置」iiiを明記した。

「12条の優遇措置」では、財政税収減免や融資、開発区の管理権限、内陸部発展(対外開放度アップ)のためのバックアップ策などが盛り込まれている。この優遇政策には、国内外からの投資誘致を早期に実現させたい遼寧省の意向が強く反映されており、2006年1月1日から2年間有効な新優遇政策としてアピールしている。

今年3月初めには、国家開発銀行の視察団が「五点一線」の現場を視察し、報道によると、同銀行は「五点一線」建設のために300~400億元の政策性融資、2億元の技術援助融資の提供する意向を示したという。

●「五点一線」戦略が打ち出されるまでの政策の流れ

03年10月 「東北地区等旧工業基地振興戦略実施に関する若干の意見」(通称11号文件)
05年 6月 「東北旧工業基地の対外開放の一層の拡大を促進することについての実施意見」(通称36号文件)
05年 7月 遼寧省・全省対外開放工作会議)
06年 2月 「遼寧省人民政府・沿海重点発展区域の対外開放拡大を奨励することに関する若干の政策についての意見」(遼政発[2006]第3号)

3. 「五点一線」の現場で感じた点

遼寧省では現在、「五点一線」の売り込みに必死だ。特に近隣の日本企業や韓国企業の「産業移転地」にと、大きな期待を寄せている。遼寧省経済委員会では3月下旬、瀋陽や大連に駐在する外国政府機関や大手外資企業などを対象に「工業開放視察団」と銘打ち、2泊3日の「五点一線」現場視察ツアーを組織した。省政府をあげて、対外向けに新政策の現場ツアーを組むのは初の試みだという。筆者も参加し、「五点一線」の一部分(営口、大連長興島)を見学した。

現在、「五点一線」の開発状況は、大連長興島が最も進んでいる。すでに住民の新居住区域(集合住宅)への移転が完了し、埠頭建設も急ピッチで進んでいる。遼寧省が国家開発銀行と契約した融資のうち、80億元を同島に分配するという力の入れようだ。あくまで、「大連北東アジアの重要な海運センター」を補完する位置づけだとし、埠頭の種類や建設計画は大連港や大窯湾と競合するものでなく、むしろ手狭になった両港を補うものだとしている。

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遼寧(営口)沿海産業基地は、市中心部に隣接する120平方キロメートの塩田の土地整備に着手したところで、今後3期15年にわたる開発が計画されている。産業区(ファインケミカルなど8ゾーン)や商業貿易区を2010年までに建設する。同産業区管理委員会は、「現在の土地価格は1平方メートル60元と格安だ」とアピールする。

今回、営口、大連長興島とも座談会形式で説明会を実施し、直接現地政府指導者や計画責任者から「五点一線」構想を伺うことができた。また、参加外資企業などからの疑問や提案を地元政府の担当者が熱心に聴取する一幕もあった。地方政府のプレゼンテーションは以前に比べてスマートになっており、地方政府の必死さが感じられた。

かつて計画経済時代の影響を色濃く受けてきた東北地方政府のイメージは、『等、靠、要』(スローガン好きだが腰が重い、常にお上=政策頼み)だった。国有企業の不振が深刻だった数年前までは、東北旧工業基地は大量の負債とレイオフ者・失業者を抱えて「東北現象」に苦しみ、瀋陽市の汚職事件などもあって、東北地方には最近まで積極的な明るいイメージを感じにくかったが、今回のツアーでは、地方政府の「必死さ」と「やる気」が伝わってきた。李克強・遼寧省共産党委員会書記もことあるごとに「沿海経済ベルト地帯建設に力を入れよう」と音頭をとっている。

その背景には、「東北振興政策」が打ち出されたものの、なかなか外資の投資が押し寄せる状態までには至っておらず、沿海部「五点」への進出企業に税制優遇や輸出産業育成金を与えるなどして、対外開放度を一気にあげたいという遼寧省の強い思惑がある。また「五点一線」戦略が実現すれば、「瀋陽経済圏」(遼寧中部都市群)をはじめとする内陸の後背地にも波及効果が期待できる。

2004、2005年の東北3省のGDPはいずれも全国平均を上回る二桁の伸び(2005年は遼寧12.3%増、吉林12.0%増、黒龍江11.6%増)を示しているが、中国全体に占める東北3省GDP合計の割合はここ数年低下し続けているのが現状。この点は、国務院東北振興弁公室も東北振興政策に残された今後の課題として指摘している。

2002年 2003年 2004年 2005年
全国に占める東北3省GDPの割合 11.14% 11.09% 11.08% 9.38%

(出典:中国統計年鑑・遼寧・吉林・黒龍江省の各年度統計年鑑、中国国家統計局HPより作成)

もう一つの課題は、この「五点一線」戦略を対外向けに、いかに魅力的に、分かりやすく、ビジネスチャンスとしてアピールし、実際の投資誘致に結びつけることができるかだ。「五点」の地名一つとっても、一般の日本企業にはそれほど馴染みがない土地ばかりである。4月上旬に予定されている日本、韓国での説明会の反響がどれだけあるかが、今後の投資を占う一つの目安になるのではないか。


  1. 瀋陽を中心に、その周辺6都市(鞍山、撫順、本渓、営口、遼陽、鉄嶺)で構成される。全省GDPの60%強を占める。東北及び遼寧旧工業基地の核心部。この7都市で東北地方の鉄鋼工業の85%以上、遼寧省の石油化学工業の3分の1を占める。
  2. 一つの中心は「大連東北アジアの重要な海運センター」建設、二大基地は「設備製造基地、原材料基地」、三大産業は「ハイテク産業、農産物加工業、現代サービス業」。
  3. 遼寧省人民政府文献遼政発「2006」第3号
    遼寧省人民政府の沿海重点発展地域の対外開放拡大に関する若干の政策についての意見

    各市人民政府、省政府の各庁(委員会)、各省政府の直属機構:遼寧省共産党委員会、遼寧省人民政府はこのほど、沿海経済ベルト地帯(沿海経済帯)を重点開発し、『五点一線』のスローガンの下に、対外開放を拡大するという戦略的構想を打ち出した。この構想に基づき、今後、わが省の対外開放の重点は、大連・長興島臨港工業区域、遼寧(営口)沿海産業基地、遼西・錦州湾沿海経済区域(錦州西海工業区域と葫芦島・北港工業区を含む)、遼寧・丹東産業パーク、大連花園口工業園区の5つの重点地区(以下、5つの重点地域と略称)に置く。遼寧沿海経済ベルト地帯の早期発展を実現するため、上記5つの重点地区は、2006年1月1日から2年間、以下の新優遇政策を享受することができる。
    一、2005年をベースに、5つの重点区域が上納する増値税、営業税、企業所得税、個人所得税と家屋不動産税について、省財政は増分の70%を返還し、インフラ建設や支柱産業建設支援にあてる。
    二、5つの重点地区内にハイテク企業を設立する場合、税率15%で所得税を徴収する。
    三、5つの重点地区内で新しく設立する国内資本のハイテク企業、収益年度から所得税の2年間の徴収を免除する。
    四、省中小企業信用担保センターは、園区内の条件を満たした企業に対して、優先的に銀行ローンを担保保証する。
    五、5つの重点地区内の装備製造、原材料加工、ファイン・ケミカル、農産物加工、紡織、医薬などの業界に対する技術改造やサービス業分野のプロジェクトに対して、省レベル財政は優先的に期限付きのローン利子補給を与える。
    六、5つの重点地区内の対外貿易輸出企業が品質認証、製品の対外的宣伝や広報活動、国際専門博覧会への参加費用が必要な場合、中小企業国際市場開拓資金を重点援助する。
    七、5つの重点地区内に設立する輸出加工基地企業を重点援助する。知的財産権取引、輸出製品のグレートアップ、新製品の研究開発、国外での製品登録や広報活動、農産品の開発・栽培などを行う場合、東北旧工業基地・対外貿易促進資金を優先援助する。
    八、5つの重点地区内のすべての企業(建設中の企業及び新建設企業を含む)に対して、行政管理部門が徴収する事業性費用を全免する。国家が管理する行政事業性費用が、パークの管理部門あるいはパーク所在地の市の財政が負担する。省レベルが管理する行政の事業性費用を免除する。優遇政策の享受期間中に、新しく発生した行政の事業性費用の徴収はこの政策に基づいて、実行する。
    九、5つの重点地区は省レベルの経済技術開発区と同等の経済管理権限を与えられる。
    十、国家開発銀行などの金融機関を利用し、融資のプラットフォームを建設し、融資支持の重点分野と融資システムを制定する。金融機関はプロジェクト計画、論証の入手から参与し、技術支援と融資支援を結びつけ、政府の信用と企業の信用を結び、5つの重点地区のプロジェクト開発作業を積極的に推進する。
    十一、錦州市と葫芦島市はそれぞれ、朝陽市と阜新市の区域内に若干の広さの「飛び地」を持つことができる。この飛び地内に設立した企業は、第一条の優遇政策を享受できる以外に、増量の100%を返還し、両市(「飛び地」を提供市と使用市)はそれぞれ50%の比率で分配する。
    十二、政策の中で大連市に関連する部分は、大連市人民政府が省の政策を参照し、具体的実施方法を制定する。その他の市は、当地の現状に鑑みて奨励政策を制定する。