プーチン訪日を終えて

|ロシア・モンゴル

プーチン大統領の訪日が終わった。予想通り、北方領土問題では日露両国の立場の違いが埋まらず、共同文書の作成も見送られた。また、当初、領土問題に替わるプーチン訪日の目玉となると期待された東シベリア石油開発とその輸送パイプライン建設での日露協力に関しても、結局、太平洋側への一括建設を主張した日本案は受け入れられず、二段階方式が確認された。これによって、事実上、中国ルートの優先着工が確実になった。我が国にとって、プーチン訪日の成果は皆無だった。

さまざまな原因が考えられよう。エネルギー価格の高騰を背景とした現在のロシアの好調な経済状況の結果、我が国が対ロシア外交を展開する上での最大のカードであった“領土問題の解決をともなう平和条約の締結と引き換えに経済支援”というカードは、その有効性が大きく低下している。また、冷戦時代には、敵対関係にあった露中は、冷戦終結後、10数年の時を経て、経済の相互依存も深まり、昨年10月には領土問題を完全解決させるなど、両国関係は著しく改善しており、所謂“チャイナ・カード”の有効性にも限界がある。etc

とはいえ、11月22日付けの読売新聞社説のように、7月の中露主導の上海協力機構が中央アジア地域からの米軍撤退時期を要求した事を例に挙げて、「(対米戦略上、)中国との関係を深めるロシアが、米国と同盟関係にある日本との関係改善の優先度を低く置くのは当然だろう」との見解にも同意しかねる。筆者はプーチン訪日に先立って発生した次の二つの出来事に注目している。

  1. プーチン政権は、去る10月6日、上海協力機構とは別に、ロシアが他の中央アジア共和国との間で組織する中央アジア協力機構と、やはりロシア主導で旧ソ連邦地域における自由貿易圏の創設を目指して結成されたユーラシア経済共同体の統合を決定した。実は、中国は上海協力機構の枠組みを利用して、自国の中央アジア地域でのエネルギー資源を中心とした経済権益の拡大を狙っている。これを警戒するロシア側は、中央アジア協力機構とユーラシア経済共同体を統合する事で、この中国側の攻勢に対抗する積りである。つまり、露中にはその中央アジア戦略を巡って大きな相違があり、これは今後益々拡大していく可能性が高い。
  2. 更に、11月6日、ロシア連邦保安局(FSB)は、中国に国家機密を漏洩したとの罪で、ロシアの宇宙関連研究所の関連会社Tsniimash-Export社のイーゴル・レシェティン代表とその部下2名を起訴したと発表している。

つまり、露中関係には、上記の読売新聞社説がいう程、安定した戦略的基盤がある訳ではない。

また、米露関係も冷戦時代のそれとは別の論理で動いており、去る10月12日には、米ブッシュ大統領自身がポーランド大統領との共同記者会見の場で、「私は、ロシアの民主主義が米国のそれと異なることを認めます。我々は、全ての国が我々と同じようになることを期待してはいません」と述べ、また、両国関係の最大の懸案とも言われたイランの核開発問題でも、ここに来て急速にその立場を接近させるなど、現在、米露はそれほど深刻な対立関係にはない。よって、一部に、今年5月、米ブッシュ大統領がヤルタ協定を批判した演説(リガ演説)を行った事を引き合いに出して、「米国と協力してプーチン政権に圧力を掛けるべき」との見解もあるが、これも現実的ではないであろう。

筆者は、日露両国が、チャイナ・ファクターを軸に発展的・戦略的関係を構築するのは不可能ではないと考えている。但し、その為にも、まず、日本国内で、あるべき21世紀の対外戦略について徹底的に議論することが急務であろう。

(了)