知る努力 知られる努力

|中国

ちょうど10年前の夏、タイ北部・カンチャナプリのクワイ川に掛かる鉄橋、俗に言う「戦場にかける橋」を訪れた。クワイ川鉄橋は第二次世界大戦中、日本軍が連合軍捕虜や現地人を強制労働させ、多くの犠牲者を出しながら建設した泰麺鉄道で、映画で一躍有名になった橋だ。今では世界中から旅行者が訪れる名所で、常に多くの日本人観光客やみやげ物店で賑わっているが、その橋のすぐ脇に犠牲者の墓地があるのを知っているだろうか。

当時、観光で訪れたものの、その墓地の由来は映画や小説で知っている。素通りするのも気が引けたので、墓地の片隅で目立たないように小さな花束と黙礼を捧げた。そのとき、背中越しに「Are you Japanese?」と聞こえた。驚いて振り返ると、老境も峠を越えた婦人が、優しい笑顔でうなずいている。周囲の家族らしき人たちも一様に温かな視線でこちらを見ていた。遺族だろうか。何とも表現できない気持ちで一礼し、その場を離れたことは今でも忘れられない。

この夏、中国の共産党関係者の訪日団に同行し、その途中に広島を訪れた。目的は原爆ドームと周辺の視察。いわゆる「世界遺産」を案内する程度の気持ちで平和記念公園に足を運んだが、予想外の光景を目にすることになった。彼らは原爆死没者慰霊碑に大きな花束を捧げ、全員で深々と一礼したのだ。驚いた。世界遺産としての知識はあるだろうが、広島は外国人にとって観光地ではないのか。誰に強制されたわけでもなく、誰も見ていない真夏の暑い日差しの下で黙祷する姿を、ただ黙って見ていた。

その時、その場に近づいた慰霊の老人たちの眼差しには、かつてタイで見た同じ優しさを感じると共に、中国の青年の「ここで日本の人たちも大きな被害を受けたんですよね」との問いかけに、世界遺産の案内とばかり思っていた自分を少し恥じた。

今年も神社の参拝、戦争責任、アジア外交など、様々な議論や意見が連日マスメディアを賑わしている。各人各様の意見があり、議論することは大切なことだとは思うが、この場でそれを提議するつもりはない。ただ、お互いのことを知ることは、必要だと身体で感じている。

9月掲載の原稿を書こうと筆を取った今日は、8月15日。首相参拝の話しでもちきりの一日の終わりに、NHKの「日本のこれから」という討論番組を見ながら執筆している。昨年、縁あってこの番組に出演し、靖国、教科書というテーマで意見した。最後の質問となり、これからのアジア関係を一言で、と司会者に問われた。深く考えるつもりもなく、「知る努力 知られる努力」と答えた。我ながらいい言葉だと、今でも感じている。