ロシア極東経済への視座

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エネルギー価格の高騰と好調な石油・天然ガスの輸出を背景に、ロシアの外貨準備高は2006年7月、台湾を抜き中国・日本に続く第3位の規模となった。パリクラブへの前倒し返済も2006年8月に決定した。ロシアが順調に債務返済を行えるか否かが危惧されていた2001-2002年頃のことを思うと隔世の感がある。

さて他方、北東アジアに位置するロシア極東部の状況は、依然として楽観出来るものではない。確かに生産は回復基調にあるものの、そのペースは全国水準に達していない。そうした中、注目を集めるのは極東地域における対外経済関係の強化である。微視的な側面から一時盛んに取り沙汰された「担ぎ屋貿易」のみならず、サハリン大陸棚開発や東シベリアからの石油パイプラインの整備に端を発しうる地域成長の可能性が注目されているところである。

しかしながら、それが日本経済、あるいは日ロの経済関係にどれほどのインパクトを与えるものであるか、という側面を見れば甚だ心許ない。広く知られているように、そもそも極東は人口規模でロシア全体(1億4千300万)の5%を下回り、広大な面積にたかだか660万の住民を抱えているに過ぎない。地域の輸出入額も極東に対する外国投資も、対ロシアの全輸出入額・全外国投資のうちそれぞれ5%程度のシェアを占めているのみである。さらにその外国直接投資の対象となっているうちの圧倒的な部分がエネルギー・非鉄金属・木材等の素材産業であり、その投資がロシア自身にとってどれほど幅広い肯定的影響を与えうるのか、という点について疑問を持たざるを得ない。

相対する日本にとっては、ロシア極東は人口規模では九州の半分以下、あるいは550万人の兵庫県を100万人ばかり上回っているに過ぎない地域であり、かつ1ヶ月当たり平均所得でようやく3万円を超えた当該地域の有する意味はいかにも限定的である。現地に進出するとしても、サービス網を張り巡らせる際にそのカバーすべき面積が広大なものとなってしまうことを考え合わせれば、日本企業の進出が進まないのも故なきことではない。また生産基地として考えるにしても、中国に比べて賃金水準が高いことがネックとなる。生産に要する技能というものを考慮すれば、労働力のプールが小さいという限定要因がある。さらに背景として地場の製造業の発達が遅れている点も加味する必要があろう。昨今取りざたされる極東に存する資源についても、その利用に問題が残されている。資源を採掘したとしても、その搬出に関わる産業・社会基盤の整備がなかなか進まないことは知られている通りである。外国資本の導入を主張する声もあるが、そもそも経済支援のような形をとらずに収益の見込みを立て難いインフラ部門への外資参入を図ることには困難があると考えられる。政府間協力の必要性が強く押し出される所以である。

体制転換に伴う急激な経済状況悪化の時期は既に過ぎ去った。しかしながら、そのことが今後の極東経済の持続的拡大が続くことを意味するものと捉えることは出来ない。無論、昨今におけるエネルギー関連の国際市況に応じた資源開発を期待することは可能ではあろう。だがロシア極東地域の抱えるさまざまな問題点を勘案すると、中央政府の極東開発政策の根本的転換や日ロ・中ロ間におけるエネルギー連関の急速な深化といった政治的環境の大きな変化がないならば、その開発の進展は今後の課題と見るべきかもしれない。そうした視点で言えば、極東開発に力点がおかれた2006年予算の実効性や今後のロシアにおける政策の動態に着目していく必要があろう。