2007年4月、モスクワ

|ロシア

4月初頭、所用でモスクワを訪れた。9ヶ月ぶりのロシアであったが、街の活気は相変わらずである。その負の側面と言うべきか、市内自動車道路の混雑ぶりは半端なものではない。そしてホテル料金の高騰は、もはや異常と言うべきである。昨年8月に1泊130ドルで宿泊したモスクワ郊外のホテルに、他に空きがなく今回も泊まることを余儀なくされたが、この度は1泊230ドル、まさに「取られた」という思いであった。さてそのホテルは、部屋こそロシアにしては比較的マシではあるものの(とはいえ日本であればせいぜい1泊1万円程度の代物である)、最寄りの地下鉄駅ペテロフスカ=ラズモフスカヤ(これが又中心部からかなり遠い)までバスで30分近くかかるという非常に不便な立地である。かといってタクシー等を使えば、市内の渋滞に入ることを余儀なくされ、中心部の目的地まで2時間近くかかりかねない。そこで今回の滞在ではバス+地下鉄を利用することが増えたのであるが、この度驚いたことがある。地下鉄や市内バスの中では、しばしば「***求む」といった求人広告を見ることが出来る。その中に、「列車の機関士求む」というものがあったが、目を見張ったのはその条件であった。「給料は3万5千5百ルーブルから」となっていたのである。

2007年2月末現在のロシア全体で見た平均賃金は1万2千ルーブル(5万6千円)弱、モスクワ市の同じ数字は1万9千7百ルーブル(9万円)弱である。他方賃金以外のもの(年金、資本所得等)を考慮に入れた一人あたり平均貨幣所得は全国平均1万1千ルーブル弱であるが、モスクワ市平均では2万6千ルーブル(12万円)弱となっている。一人当たり平均所得のみから考えれば、モスクワ市の世帯主の給与が4万ルーブル弱であっても不思議は無い。とはいえ、3万5千5百ルーブルといえば日本円で約17万円である。モスクワ市の平均賃金統計から見て、地下鉄の機関士がそうした給与を受けているということは思ってもみなかった。公式統計はあくまでも公的に把握出来る範囲に過ぎないものであり、実際の所得がそうした数字に留まらないものであるということは共通認識であると言って良い。しかしながら、どうやら私が想像していた以上にモスクワっ子の所得は高そうである。

今回のモスクワ滞在中、私がモスクワを訪れる際必ず行く、中央電電信局の向かいにあるイタリアンレストランへと某氏と共に行った。2002年に初めて訪れて以来、毎年必ず行っている場所である。その接客姿勢といい料理といい、初めて食事した際の感激たるやいかばかりであったか。ただし当時のロシアの所得水準を考えれば料金ももちろん安くはなく、2002年、客はといえば外国人と「新ロシア人」ばかりが目立つものであった。1回の食事にかかる費用はその当時からアルコール抜きで1人4,000円程度であろうか、そういった店である。

だが今回(実は去年にも少し感じていたのだが)、接客の「質」が、明らかに以前と同じものではない、という感覚を覚えた。有り体に言えば、ロシア版ファミリーレストランと言うべき「ヨールキ・パールキ」で見られるそれと近いものである。料理も、基本は変わらないのだが、「仕上げ」と言うか、何か「ツメ」の甘さを強く感じたのである。そして周りを見渡せば、外国人らしい客といえば私たち以外見当たらない。かといって「新」ロシア人というわけでもない。目抜き通りのトヴェルスカヤ通りというよりは、そこから一本裏手に入った「大ドミトロフカ通り」あたりでも歩いていそうな出で立ちのロシア人ばかりで満席である。ロシアの人々の所得水準が向上したおかげでこのイタリアンレストランも、良くも悪くも「ロシア化」が進んだのか、と苦笑いを禁じ得なかった。