米国産牛の輸入再開と韓米FTA批准の行方

|朝鮮半島

韓国新政権の対外政策の要である対米関係の改善と韓米FTAの国会批准が暗礁に乗り上げかけている。米国産牛肉の輸入再開に対する国民と野党側の反発が日増しに高まってきたからである。そもそも韓米FTA交渉・採決と牛肉輸入規制問題は別物であったはずだ。しかし、いまや両問題は切っても切れない政権最大の懸案となったのである。少なくとも野党側は牛肉の輸入再開交渉の再交渉なしには韓米FTAの国会批准に一切応じないという強硬姿勢である。

韓国は2003年12月、米国でBSEの発生が相次いだことを受け、米国産牛肉の輸入を全面的に禁止した。その後06年3月からは、月齢30カ月以下で骨や特定危険部位(SRM)を取り除いた肉以外は輸入を認めていなかった。昨年4月2日韓米FTA採決後も月齢30ヶ月以上の骨付き牛肉の混入が相次ぎ、返送や検疫中断を繰り返してきた韓国側は、2007年5月22日、家畜の安全基準を定める国際獣疫事務局(OIE)が米・カナダに対し、狂牛病危険統制国と判定したことを認め、輸入衛生条件の改正交渉を宣言したのである。その矢先の昨年7月29日、米国から輸入した牛肉からBSE(牛海綿状脳症)の特定危険部位である脊柱が見つかったため、韓国は米国産牛肉の検疫を中断し、米国産牛肉の輸入は可能だが、検疫を通過することができないため、市場には出回らなくなった。

当然のことであるが、韓国側は米国に真相究明と再発防止措置を要求し、米側が十分な対策を講じない限り検疫中断措置を続ける方針を駐韓米大使館に対し厳重に抗議し、伝えてきたはずだ。しかし、昨年8月29日に米通商代表部(USTR)のシュワブ代表は、日韓中3ヶ国を名指しして米国産牛肉の輸入基準の早期全廃を求める一方、牛肉問題の決着が議会で自由貿易協定(FTA)の承認を得る条件になるとの認識も示した。このような厳しい注文によって、政府間で合意済みの韓米FTA国会承認問題が牛肉輸入問題と絡んでしまったのである。

しかしながら、韓国側は昨年10月の交渉段階でも、牛の7つのSRMと内蔵、尻尾等の副産物を除き、30ケ月未満の年齢制限も維持するという立場であったが、米国は受け入れなかった。その後、米国側の再交渉提案により大統領訪米直前の再交渉で妥結を図り、輸入制限措置を段階的に撤廃することで合意し、米大統領との首脳会談では両国議会のFTA批准同意に向けた努力を訴えていた。米国産牛肉の輸入制限が韓米FTAの米議会での批准における最大の障害要因であるとの判断も作用した。

しかし、両政府が輸入再開に合意した内容には多くの問題が絡んでいたことが明らかになった。第一に、狂牛病または人間狂牛病が発生してもOIE規定に反していない限り、輸入を即時中断(最初の摘発の場合は検疫は継続、二回連続摘発の場合は当該作業場だけ検疫中断、しかし輸入は再開)するという項目は盛り込まれていない。つまり、30ケ月未満の場合には、7つのSRMのなかで5つも入ったものまで許容されることになり、OIE規定に優先されるべき自国民の食の安全を守るというWTOの規範に定められた検疫主権を放棄したこと、第二に、飼料禁止措置が強化されたにも拘らず月齢30ケ月以上の牛の脳や脊髄を除く5つのSRMも飼料の原料として認めたこと、第三に、米国の衛生システム(牛の加工工場に対する検査)に対する同等性を認めることによって、米国の牛輸出作業場に対する承認を相手国が個別作業場別に行うのではなく米国政府に委任したことなどである。OIE基準遵守と同等性認定については、すでに韓米FTA妥結後、米国農業貿易政策諮問委がUSTRを通して促していたものである。

その後、一般市民と野党を含む政治圏の反発と再要求交渉に直面した政府は、再交渉ではなく追加協議の形をとり、「米国でBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)が新たに発生した場合、韓国は輸入を中断する」という輸入中断・検疫という検疫主権を明示し、特定危険部位に関しても「米国内消費用と同じ規定を適用、脊柱の周辺部など4部位を輸入禁止」という内容を追加することで米側と合意したと発表した。米牛肉輸入への不安が広がっていることに対応した最大限の措置だった。だが、野党が要求する「月齢30カ月以上の牛肉輸入禁止」などは盛り込まなかったので、再交渉要求は日増しに高まってきた。

しかし、政府は米国の輸出検査の現場視察団の帰国報告を踏まえ、国内産牛農家支援とOIE認定対策、輸入肉原産地表示強化策等を講じることを前提に米国産の牛およびその製品の再輸入衛生条件の最終告示にこぎ着けることになった。この新しい輸入衛生条件によって、6月初めに月齢30ヶ月未満牛の扁桃(タンのうしろ)と回腸遠位部(小腸の末端)、30ヶ月以上の牛の7つのSRMを除くすべての牛およびその製品が検疫後に輸入が始まる。勿論、月齢が確認できないSRMは返送されるが、このことは輸入条件にないSRM月齢表示を米国側にさらに求めることに等しいとされる。

以上のように牛肉再開問題で国政が混乱する中、第17代国会は会期末残り1日となり懸案の韓米FTA批准は次期国会の課題となった。米国側も民主党擁立の次期大統領候補が韓米FTAに反対または修正を求める中、牛肉輸入再開輸出で得した利益グループがこれら反対勢力を押さえるところか自動車分野の再交渉に加わるとすれば、両国にとって最悪のシナリオも予想される。韓米FTA批准が遅れる場合、それだけ当初期待された対米輸出、投資誘致、雇用創出等、経済効果は勿論、サービス業競争力向上の機会をも喪失し、国際信任度は低下し、韓日・韓中FTA交渉の際にも不利な立場に立たされるであろう。韓国は今回の牛肉輸入再開問題から、以前には経験しなかった食の衛生・安全を守るということが如何に大事であるか等様々な教訓を学んだ。これからの対外通商交渉に大いに生かされるものである。そして、次期国会は韓米FTA批准案をアメリカより先に早期処理することによって、アメリカ側にして自国の生産者だけではなく消費者にも細心な配慮をするよう圧力を掛けるべきであろう。保護主義ではアメリカ再生は遠のくばかりである。