瀋陽の都市開発にかかる一考察

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現在、瀋陽は開発ラッシュだ。瀋陽市街を歩くと、至るところで建設現場や取り壊し予定地を見ることができる。2007年、瀋陽市における全社会固定資産投資額は2,361.9億元で前年比31.9%増となり、成長率は全国レベルの24.8%を上回り、2006年の前年比31.3%に続き2002年以来30%以上の高成長率を保持したi。固定資産投資のうち、都市での投資が全体の95%を占めて前年比32.0%、産業別では第一次、第二次、第三次産業がそれぞれ2%、39%、59%を占めた。投資主体別iiでは民間投資が全体の61%を占めたが、特に外資及び台湾・香港・マカオからの投資が前年比44.6%で高成長率となった。また、不動産開発投資額は730.4億元で全体の31%を占め、前年比35.7%増と2006年の30.2%増を上回り、引き続き成長傾向にある。

現在行われている主なプロジェクトでは、地下鉄工事と「金廊」建設が挙げられる。地下鉄工事は、瀋陽市街を東西と南北を貫く形で1号線、2号線が建設中で、それぞれ2005年11月、2006年11月より建設が開始、1号線は2010年前半より開通、運営予定となっているiii。2007年は25.3億元が投資され、1号線全ての駅及び2号線の全線で建設が開始された。後者の「金廊」建設は、瀋陽市の「中央都市ベルト」として、市街区の中心をとおり南北に全長30kmの区域に「現代サービス産業集中区」を建設するプロジェクトでありiv、瀋陽市第11次5ヵ年計画においても、市の「四大発展空間」v建設と並んで提示されている。現在、「金廊」にあたる地域では、深セン(セン:つちへん+川)や香港の建設会社による建設現場や予定地が見られると同時に、比較的旧い団地群の立ち退きが進んでいる。立ち退き現場では、壁に「支持金廊建設為瀋河区争光」、「早契約早搬家早受益」、「高高興興搬旧家、歓歓喜喜遷新居」、「拆」、「拆」、「拆」vi、、、と書かれた多くの団地を見ることができ、取り壊しと居住民立ち退きが急ピッチで進んでいる様子が窺える。

一方、開発に伴う居住民の立ち退きに関し、青年大街(「金廊」の中心地帯)沿いの団地の取り壊しにかかる立ち退き補償金では、現場附近の物件は高くて購入できず、郊外に移転せざるを得ないために、現在も立ち退きを拒む住人がおり、さらに彼らに対し立ち退きを促す違法行為が未だ行われているとの噂があるvii。附近の物件価格の上昇について、4月11日付「経済参考報」(ネット版)viiiによると、立ち退き面積の増加、立ち退き保証金の上昇も理由の一つとして挙げられている。同記事によれば、青年大街沿いの家屋取り壊しによる立ち退き補助金が1平方米あたり6,900元の最高額に達した一方、附近の中古マンションの価格が引き続き上昇しており(2007年の中古マンション平方米あたりの価格は前年比11.96%増)、あるマンションでは1平方米あたり8,900~9,000元、建設年数10年以上のマンションでも5,000元以上、立地条件が良好である場合には1万元以上で、特に青年大街沿いが上昇していると伝えている。マンション価格の上昇は、その他様々な要素が影響しているとみられるが、居住民を保護する立ち退き保証金が上昇し、開発コストがアップすることで、一部地域の居住民が出来るだけ近くで新居を探すことが更に困難となるのであれば、市場原理であるとしても皮肉な面をも感じるとともに、開発~立ち退きの結果としての全体的な利益がどこに帰着するのかが一層気になる。

昨年10月により施行された「物権法」では、国家、集団、個人の物権(所有権等)は同等に法律の保護を受けることとなった。また、立ち退きについては「公共の利益」の為に法律に規定されている権限と順序に従って行うこと、また法に従って補償を行い、立ち退く側の合法的な権益を保護、居住条件を保障しなければならないと規定された。「物権法」の成立及び施行前においては、立ち退きに関する問題は日本でも新聞などで取り上げられることが多かった。施行後8ヶ月以上が経過し、少なくとも瀋陽では市街区の開発がまだ続くと考えられる中、法律の実際の執行状況と地域ごとの状況について引き続き注目する必要があると考えられる。と同時に、都市の景観が激変していく程の開発の最中、「物権法」がいう「公共の利益」が実際にはどのような形でどこに還元されているのかに留意していくことが重要であると思われる。

kusanagi7

▲ 青年大街沿いの取り壊し現場、あとには大型商業施設が建てられるという。(2008/6/14報告者撮影)

(本稿は、執筆者個人の見解であって、日本国政府、日本国外務省または在瀋陽日本国総領事館の公式見解ではありません。)


  1.  「瀋陽統計年鑑2007」によると、2004年の前年比66.7%増を境に成長率は減少傾向、2007年は2003年以来初 めて前年の成長率を上回った。その他本稿における2007年の主な数値は、「2007年瀋陽市国民経済和社会発展統計公報」(2008年5月5日付「瀋陽日報」(11面))による。
  2. 国有経済、外資及び香港・台湾・マカオの投資はそれぞれ全体の21%、18%。
  3. 瀋陽地鉄網、http://www.syditie.comによる。
  4. 主に2007年11月8日付「瀋陽日報」(1面他)参照。
  5. 瀋陽市街区の東西南北に、東部現代旅遊レジャー区、瀋西工業走廊、大渾南地区、瀋北農産品食品加工区を建設する。
  6. 「支持金廊建設為瀋河区争光」(金廊建設を瀋河区が栄光を勝ち取るために支持する)、「早契約早搬家早受益」(早く契約し、早く引っ越しをして、早く利益を受けよう)、「高高興興搬旧家、歓歓喜喜遷新居」(喜んで古い家からお引っ越し、楽しく新居へお引っ越し)、「拆」(取り壊し)。
  7. 立ち退き現場附近の住民から聴取。
  8. http://jjckb.xinhuanet.com/cjxw/2008-04/11/content_92673.htm