外資に対する民族感情

|中国

外資が中国市場に進出する手段として、最近では独資企業や合弁企業の設立といったグリーン・フィールド投資ではなく、M&Aが増えてきている。日本企業による海外企業の買収金額は、2008年に総額で7兆4621億円と前年の2.6倍になっている(日本経済新聞2009年2月6日)。日本企業の対中投資もこの傾向と一致しているようだ。

ただ、この場合、外資企業が中国の更なる潜在的成長をとらえてチャンスを掴む上で、ビジネス・インテグリティ戦略が重要になる。中国人の民族感情が、外資に対する警戒心・敵愾心として発現することもあるからである。

コカ・コーラ社による匯源公司の買収事案の審理過程の報道でこのことを強く感じる。

2008年9月3日にコカ・コーラ社は、匯源公司の買収に関する申請書類を独占禁止法と国務院の「事業者集中の申告基準に関する規定」(2008年8月4日公布、同日施行)の定めに基づき、商務部に提出した。以来、半年が経ち、いよいよ最終審査の段階に入ったようであるが、関係者の話では買収を認めるには幾つかの難問があるという(法制日報2009年2月12日)。

最大の難問は、中国人の民族感情である。コカ・コーラ社による匯源公司の買収事案が報道されたところ、あるネットが、この企業買収計画について一般市民の賛否をネット上でアンケート調査したところ、10日間に46.2万人回のアクセスがあり、反対が79.4%にも上っているという。反対理由は、中国が育てた固有ブランドが外資に買収されることに対して、民族感情として認めがたいということである(http://www.legaldaily.com.cn/2007fycj/2008-09/22/content_949628.htm)。

次に、立法技術的な問題であるが、独禁法および「事業者集中申告規定」においては、なお事業集中の概念、判断基準が不明確であり、不透明さがあるということがある。コカ・コーラ社による匯源公司の買収事案についていえば、飲料製品という広義の分野で判断するのか、果汁飲料という狭義の分野で判断するのかということである。コカ・コーラ社は果汁市場の市場販売額の9.7%を占め、匯源公司は同56.8%を占めており、両者が合併すれば60%超のシェアになるという。しかし、飲料製品ということでは、両社合計して20%強のシェアである。

現時点で独占禁止法に基づく明確な判断基準が定められていないので、行政機関の裁量が働く。このときに民族感情がどうであるか、また、この民族感情を利用して関連業界や行政機関が審理に干渉してくるということが実務上の問題となっているといわれる。

以上のような問題があるとき、上述したとおり外資企業が中国の更なる潜在的成長をとらえてチャンスを掴むには、ビジネス・インテグリティ戦略が重要になる。中国会社法5条は、「(会社は)社会公徳、商業道徳を遵守し、誠実に信用を守り、……社会的責任を負わなければならない。」と規定している。2008年5月の四川大地震のとき、ある日本のメーカーは、従業員宿舎を罹災者に開放するという人道支援をし、地元住民から非常に高く評価された。義援金や物資による支援よりも心に響くものがあり、感謝の念はより強く記憶に残っているという。

外資に対する警戒心や敵愾心が存在するところ、外資企業は、社会的責任を果たすためのより広範な活動、地元に根ざすような取り組みが必要である。