日本・モンゴルのFTA形成は可能か

|モンゴル

我が国のFTA政策とモンゴル

近年の世界的な資源不足の中で、わが国のFTA(自由貿易協定)形成の新たな柱の一つとして「資源の確保」が加わった。世界的にみればモンゴルは資源豊富国であるので、その意味では日モFTA形成の可能性は高まったが、問題はモンゴル国内に賦存する地下資源へのニーズ(需要)、採掘に伴う技術、ならびに輸送の経路とコストの三点にあるように思われる。

周知のようにモンゴル国内のウラン鉱や銅鉱などへのニーズは近隣のロシア・中国が、採掘は中国を含むカナダなどの欧米がすでに行っており、既存の輸送経路(鉄道)は中国とロシアに接続している。したがって、「現状」では日本の商社によるモンゴルと近隣諸国間の資源取引が有望ということになり、日モFTA形成のモメンタムは失われてしまう。

日本とモンゴルのFTA形成は可能か

一般論で言えば、FTAを形成したい国が期待するのは、それによる相手国への輸出の拡大である。それによって域内市場の経済発展が促進されるのである。

しかし、モンゴルが日本とFTAを結成したとしても、「現状では」モンゴルの対日輸出の拡大は、ほとんど期待できない。「現状では」というのは、モンゴルの主要な対日輸出品目はカシミヤや岩塩および肉・皮革類のみだからである。

逆に「現状」では、FTAの下で日本がモンゴル向けの輸出拡大を期待することも難しい。なぜなら、モンゴルはロシアと中国に完全に挟まれた内陸国家であり、一部の例外品目を除けば輸入関税は一律5%と低く設定されており、約260万人の国内マーケットが小さな途上国だからである。

しかし、私は、日本とモンゴルのFTA形成は、もはや時間の問題であると思う。

それには幾つかの根拠がある。紙面の都合上、そのうち一つだけ述べてみたい。

FTAの中身が進化していることにある。「現状」で見るFTAは、域内の関税を10年以内に撤廃することによって、域内の農産物や商品の貿易が完全自由化されて一つの市場のようになることがイメージされるが、近い将来のFTAは、もはやそのようなイメージとは異なるはずである。未来のFTAがどのようなものになるかは、今のEUを見れば分かる。

「将来」のFTAでは、地球環境保全を大前提とした上で、財の自由貿易はもちろん、サービスの域内移動が自由化されるものになるだろう。具体的には人の移動はもちろん、情報や金融・サービスの自由化もされるから、財の移動を妨げる関税(タリフ)の問題は、相対的に小さくなる。

モンゴルと日本の間でFTAが形成されても、同じことが将来生じうる。よって、両国の政府・民間企業は、財以外のサービス貿易の自由化が両国間でなされた場合のことを予想した上で、長期的なFTA戦略を考えてみるべきである。まず日本からモンゴルへの人の移動は、間違いなく増えるはずである。その主役は、モンゴルの大自然を目当てに訪れる観光客である。単なる二泊三日程度の旅行ではなく、少なくとも一週間から一ヶ月程度は滞在する日本人旅行者が増えるだろう。もちろん、そのための国際空港や宿泊、道路などのインフラ整備には、日本企業のノウハウを活かせるので、FTAに伴って直接投資(FDI)の自由化も進めるべきだろう。モンゴルの手付かずの良質な自然環境を保全しながら、モンゴル側がこれを「観光資源」として活用するには日本企業の環境保全技術が不可欠であろうし、世界的なエコツーリズムの模範を示すことにもなろう。こうした「環境保全型のサービス貿易志向FTA」の形成は、日本の環境保全技術とモンゴルの大自然という両国の優位性があってのユニークなFTAであり、今後の世界のFTA交渉に大きなインパクトを与えるに違いない。民間主導の日モFTAは、日本のODA(政府開発援助)にも好ましい影響を与えるはずである。

成田空港からわずか四時間半でモンゴルの首都ウランバートルに到着できるという点、そしてなんと言っても観光地として成功する絶対条件である「ホスピタリティー」(客をもてなす心)が、すでにモンゴルの人々には脈々と受け継がれている点は見逃せない。