高品質化が進む中国の食糧生産

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2009年10月に中国最大の穀倉地帯である東北地域を回り、穀物の生産と収穫状況を調べた。3年ぶりの訪問で、最も印象に残ったのは有機栽培や減農薬への取り組みの広がりである。日本人におなじみのジャポニカ種のコメの産地として中国国内でも知られる黒龍江省南部の五常市では、有機米や減農薬米の生産はこの2、3年で急拡大したという。農家の1割が会員になっている「水稲協会」や精米工場を訪問して話を聞くと、さらに驚かされた。

「五常のコメはお姫様。お嫁に行きそびれる心配はない」。協会の幹部がまず口にしたのは地元産米への自信だった。五常市では、有機米の値段は有機栽培ではないコメより少なくとも30%以上高いという。そのうち最も品質が高く香りのある有機ブランド米の農家売渡し価格は、1kgあたり20~24元で、1元15円で計算すると60キロ当たりで1.8~2.16万円となる。「コシヒカリ」はじめ日本のブランド米の農家売渡し価格に近い水準だ。この有機米の北京のスーパーでの販売価格は1kgあたり36~40元。1kgあたりで540~600円で、5キロのパックで2,700~3,000円となり、日本のスーパーの店頭に並ぶ高級米に近い値段となる。

有機栽培の広がりはコメだけではない。とうもろこしの主要産地のひとつである吉林省松原市は雑穀の主要産地でもあり、松原市で訪問した出荷業者と農家の専門合作社(専門協同組合)も有機米と有機雑穀の生産拡大に力を入れている。09年の有機米と有機雑穀の契約生産面積は約1,500haだが、2010年には2倍の3,000haに拡大する計画という。

五常市、松原市で共通しているのは、種子や有機肥料、有機農薬などの生産資材が、協会、合作社、精米工場、出荷業者などによって統一的に提供され、有機栽培の技術指導や集荷も組織的に行なわれていることだ。東北部の有機栽培は農家の思いつきではなく、地域の取り組みになりつつある。

有機穀物は、現在の技術水準では単収の低下を意味している。それでもなぜ、有機米など高品質農産物の生産が今、急速に拡大しているのか。言うまでもなく、「需要があるから」「高く売れるから」である。日本の人口を超える規模の中産階級が経済の発展とともに中国のなかに現れつつあり、そうした中産階級が最も関心を持っているのは、実は自動車でも、海外旅行でもなく、安全で品質の高い食料なのだ。

世界の穀物価格は07年から08年にかけて急騰し、その後大幅に下落したが、現状では06年までの価格より高い水準にある。中国国内の穀物価格は国際価格ほど乱高下してはいないが、高止まりしている。高価格がインセンティブとなって、東北三省の農耕地帯は丘陵も含めてほぼすべての農地が作付されてい る。

こうして中国は国内の拡大している需要を満たすために、ほぼすべての可耕地をフル活用しつつある。それでも、今後の人口増と所得上昇によって有機米など高品質食糧の需要は急拡大するだろう。日本では一時期、中国の対日コメ輸出の話が脅威として語られたが、事態はまったく逆に向かっている。日本で余剰となったブランド米が中国市場で顧客を獲得するチャンスが広がりつつある。