農民工の賃上げ要求が示す中国の抜本的制度改革の必要性

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中国で五月末あたりから、工場労働者の賃金引き上げを求める動きが全土に広がっている。ホンダ、トヨタなど日本の自動車メーカーの系列部品メーカーでもストライキが発生し、生産が止まるケースが続発した。

今回の賃上げ要求の発端は、台湾系のエレクトロニクス製品の受託生産会社、富士康科技(深セン)で、若手労働者の自殺が相次いだことだった。自殺の理由は仕事のプレッシャーや恋愛など個人的なものもあろうが、共通しているのは「未来に希望が持てない」ということのようだ。低賃金で過酷な長時間労働、多人数を寮の一部屋に押し込める劣悪な住環境、給料未払いなど労働者は厳しい環境に置かれている。

その大半は言うまでもなく、出稼ぎ農民、「農民工」であり、とりわけ20歳前後の農村、農業をほとんど知らない一方、劣悪な環境に耐えられない「新生代農民工」たちだ。工場労働者の待遇がどこまで改善されていくかは、中国の高度成長を長年、支えてきた農業部門から工業部門への労働力移動に大きく影響する。同時に農村部の余剰労働力の解消を通じた中国農業の近代化、競争力強化の政策の成否を握ることにもなるのだ。

では、何が今、必要なのか。

前述の富士康の月額基本給は5月までは900元(約1万2,000円)に過ぎなかった。社会的な批判を浴びた会社側は今年10月までに2回に分けて大幅な賃上げを実施すると発表した。給与は半年足らずで一気に2倍になる。他の外資系企業も大幅賃上げに踏み切っており、一見すれば農民工の立場は改善されたようにみえる。だが、それでも都市部の中流層とは実質収入で驚くほどの格差がある。農民工がいくら貯金に励んだところで、中流層のシンボルになっている「マイホーム、マイカー、海外旅行」などはまったく無縁だ。

ここで最も問題になるのは、いわゆる農民と都市住民を厳しく分ける戸籍制度だ。農村戸籍の農民工はいくら都市で働いても都市住民と同様の教育や医療保険、年金、住宅手当を受けることができない。農業と全く関係なくても「農民工」という名前で制度的に差別されている。この差別的な扱いが、農民工と都市住民の実質収入を大きく開けているのだ。

こうした格差と差別を目の当たりにした農民工、とりわけ新生代農民工は、多少の賃上げでは満足しないだろう。農民工が都市住民と同等の権利を獲得し、同じ待遇を享受できるように、抜本的な制度改革が不可欠となる。中国政府は戸籍制度の改革を地域を限って試験的に行ってきたが、格差を全面的になくすような改革の時期を迎えているのだ。それと同時に、国は国有経済に予算を傾斜配分するのではなく、研究開発や雇用創出などで民間企業のインセンティブを高めるような政策転換も欠かせない。民間経済の発展こそ、農村からの持続的な労働力移転を可能にし、中国経済の競争力を向上させるからだ。

中国が社会の安定を維持し、経済の持続的成長を求めるのであれば、小手先の農民工の待遇改善だけではなく、農民が中流層に移行できる道筋をしっかり示さなければならない段階に来ている。