頭は欧州で体はアジア

|ロシア

中国のロシア研究者が、ロシアを「頭は欧州で体はアジア」と表現していた。確かに、地理的にはウラル山脈より以西が欧州部、以東がアジア部であることから、ロシアの頭脳は欧州部に存在する。政治、経済の中心地はモスクワである。しかしながら、面積はアジア部の方がはるかに大きいため、身体はアジアである。ロシアの国章「双頭の鷲」も、ロシアが欧州(ユーロ)とアジアをまたぐユーラシア国家であることを示している。

半世紀以上にわたりソ連・ロシアとビジネスを続けてきた日本人商社マンによると、ロシア人と長く付き合っておもしろかった点は、彼らが欧州とアジアの両要素を兼ね備えていることだという。なるほど、ロシア人の思考様式には欧州的な合理主義や個人主義の要素もあるが、アジア人的な人懐っこさも持ち合わせている。初対面のロシア人はぶっきらぼうで冷たい感じがするが、一度、ウォッカでも飲んで打ち解けると濃密な人間関係が維持される。こうした二面性が、ロシア(人)の特徴でもある。

ロシアには西欧主義とスラブ主義という永遠の哲学論争がある。ロシアは西欧と同じ発展をとげるのか、それとも独自の発展形態をたどるのかという議論だ。西欧主義が高まるとロシアは西欧に接近し、スラブ主義が高まるとロシアは我が道を行く。西欧主義とスラブ主義の間でロシアが揺れ動く限り、ロシアが完全に欧州に同化することはない。ロシアにアジア的な要素があるなら、なおさらである。

今のロシアにはスラブ主義的な思考が高まっており、ロシアの視線はアジアに注がれている。

第1は地政学的な理由である。ロシアに向かった欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対し、ロシアは繰り返し異議を唱えている。ロシアが勢力圏とみなすグルジアやウクライナも欧州入りを目指しているが、ロシア自身がNATOに加盟する可能性はほとんどない。今後、欧州とロシアの関係が大きく改善する余地も限られている。

第2は実利的な理由である。金融・経済危機の影響により、資源に依存したロシアの経済構造を多角化する必要性が認識されたが、それでも当面は資源輸出により経済成長を回復するしかない。今後、ロシアとしては、有望なアジアの資源市場に進出せざるを得ないのだ。日本もついにサハリン産化石燃料の輸入を開始し、ロシアへのエネルギー依存の道を選択した。しかも、アジア太平洋地域の経済活動に積極的に参入することで、ロシアは立ち遅れたシベリア、極東地域を発展させたいとも考えている。

2012年にウラジオストクで予定されているアジア太平洋経済協力(APEC)サミットは、ロシアの本格的な「アジア太平洋デビュー」にあたる。「頭は欧州で体はアジア」のロシアが、自らの足先を意識し始めているのだ。