中国:「市場」大国の現実

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金融危機が発生して以来、多くの日本企業は、中国市場の開拓に経営の力点を置くようになっている。町の雑貨屋が消え去り、スーパーやコンビニ、百貨店が登場してくる。ホワイトカラーがどんどん成長して、消費の主力を担うようになる。各社は、こうした大衆消費社会のイメージを思い描きながら、中国市場での販売戦略を構想している。

しかし、現実を冷静に見つめると、意外な事実に気がつく。それは、伝統的な流通システムである「市場(いちば)」が、依然として中国において圧倒的なプレゼンスを示している、ということである。2008年時点で、取引高が1億元以上の「市場」だけで、中国卸小売総額(つまり内需)の57.3%が創出されていた。その一方で、スーパーや百貨店、コンビニといった小売チェーン店システムの同比率はわずか22.4%に止まっている。2005年以降の変化を細かくチェックすると、小売チェーン店の卸小売総額に占める比重は、22.2%、24.2%、22.6%、22.4%と、ほぼ停滞している。今後、長期間にわたって「市場」が中国の国内流通を支配していくことが予想される。

中国における「市場」の大きな存在感は、そこで取引される商品の多様性にも現れている。日本人読者になじみのある農産物に加えて、衣服、皮靴、雑貨物、さらには、金属素材(鉄鋼など)、機械、自動車までも「市場」で取り扱われている。近年、最も著しく成長しているのは、金属素材市場と自動車市場である。2000~2008年の間に、前者の取引高が1,245億元から11,109億元へ、店舗数が30,748から79,620へと、また後者も取引高が621億元から3,023億元へ、店舗数が15,521から55,449へと、いずれも爆発的に伸びている。

中国の「市場」には、さまざまなタイプがある。沿海部の産業集積には「専業市場」と呼ばれる卸売市場ができている。そして上海や北京のような消費都市に行くと、「農貿市場」、「服装城」、「靴城」、「汽車城」といった二次卸売市場が随所で見かけられる。さらに、定期市がまだまだ多くの農村地域に残っている。これらの「市場」はネットワークを形成しながら、商品を全国の津々浦々に届け続けている。

「市場」は一見原始的で、高付加価値商品を中間層を対象に販売する日本企業とは無関係のようにみえる。しかし、よくよく調べると、そこには中国市場の開拓を進めるうえで、見落としてはならない重要なポイントがいくつも潜んでいることがわかる。

第一に、「市場」はローエンド市場向けの代表的な流通システムである。そのプレゼンスの大きさは、中国における膨大な低所得層の存在、という厳しい現実を示唆している。中国の中間層は、当然のことながらこの人々の存在を意識しながら消費行動をとっている。いわゆる「顕示的消費」という面において、彼らの行動様式が日本の消費者と大いに異なっていることは明白なのである。中国市場の開拓に取り組む日本企業は、まずこの点を理解しなければならない。

続いて、「市場」は、中国企業の置かれた経営環境を究極な形で示している。「市場」は参入障壁が低く、新規参入者がどんどん現れてくる。そこで淘汰される企業も後を絶たない。このようなで環境で成長した中国人経営者は、激しい競争に慣れているし、新しいビジネスパートナーが日々現れてくることを前提に経営を展開している。中国市場の開拓を急ぐ日本企業としては、地場企業のこうした特徴を認識して、長期相対取引を固持せず、柔軟な取引関係を作り上げていくことも重要である。