22周年の雑感

|中国

ここのところ人民元の対ドル相場がたびたび高値を更新している。中国の為替制度は2005年7月にそれまでのドル・ペッグ制から通貨バスケット制へと移行したが、その後も緩やかな上昇にとどまっていたため、米国から再三にわたり「為替操作国」認定の脅しをかけられてきた。しかしながら、まだまだ不十分との見方が強いにせよ、この間に2割以上の元高・ドル安が進んできた。さらにこの5月末からは連日のように高値更新が続いており、中国政府もその動きを容認しているようである。その理由は、5年間で輸出倍増を掲げる米国政府からの圧力ではなく、中国国内のインフレに対する警戒心である。中国では長期にわたって懸案となっている大都市住宅価格の高騰や、最近では食料など基礎生活物資の値上がりが市民生活を圧迫しており、政府もその緩和に躍起となっている。

住宅価格の高騰は都市部で暮らす若者たちの晩婚化を引き起こしている要因の1つと言われるが、その購入の困難さを物語る寓話がジョーク・メールとして中国のサイバースペースで広まったという1。それによれば、北京中心部で100平米のマンション(約300万元)を購入するためには、平均的な農民ならば自然災害に遭わずに唐代から現在まで働く必要があり、ブルーカラーの労働者ならばアヘン戦争頃から週末返上で働き続けなければならず、もしも売春婦ならば18~46歳まで毎晩一人の客をもてなさなければならない計算になる。もちろん、長寿を誇る中国といえどもそれほど長生きができるわけでも体力があるわけでもないであろうから、あくまで寓話であるが、まともに働いているだけでは購入は困難ということになる。もっとも、北京中心部の高価マンションを購入できなくても大きな支障はないかもしれない。しかし、食料などの基礎生活物資となると、ジョークにならない切迫感が生まれてくる。チュニジアから始まったアラブ諸国における反体制デモが食料価格高騰などによる生活苦に端を発したことを踏まえれば、中国政府にとっても頭の痛い問題なのである。

1989年6月4日未明の天安門事件から先日で22年を迎えたが、当時の学生リーダーであった王丹氏によれば、現在の中国の人権状況は「天安門事件当時より悪い」状態であるという2。昨年秋の劉暁波氏のノーベル平和賞受賞に加え、アラブ諸国におけるデモの広がりもあり、中国政府の締め付けが強まっているのである。そうした状況下で王丹氏は、「事件当時のような民主化運動は難しくなった」と悲観する。しかし、締め付けの厳しい本土の外側、香港の維園(ビクトリア・パーク)では、今年も20周年時の20万人に次ぐ15万人の参加者を集めて「六四」追悼集会が開催された3。その前夜には、22年前の学生たちと同じ体験をするために泊まり込んだ64名の高校生に対して、王丹氏も台湾から感謝と激励のメッセージを送ったのであった4

これまでに何人かの中国人留学生から、天安門事件の悲劇を日本に来て初めて知ったと聞いたことがある。ドキュメンタリー映画『亡命』では5、祖国を強く思いながらも帰ることができずに異国で暮らす志士たちが描かれている。国内では言論の締め付けが厳しくなる一方であるが、この先どこに向かうのであろうか。

過去数10年の間に、中国は世界で最も貧困削減に成功したという輝かしい実績を上げている。それはまた、共産党にとって政治的な生命線に他ならなかった。インフレがじわりじわりと進む一方で、ジャスミン革命以降の締め付け強化は市民の不満をくすぶらせることになる。漸進的な改革開放政策で経済的には成功をおさめた中国が、政治・民主化の面でも首尾良く立ち回ることができれば、いよいよ「北京コンセンサス」の評価が高まるのかもしれない。


  1. Anderlini, Jamil, “Beijinger’s Housing Price Fury Goes Viral”, Financial Times, Dec. 24, 2010.
  2. 「天安門事件の王丹氏『人権状況、当時より悪い』」『読売新聞』2011年6月3日
    http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110603-OYT1T00825.htm)。
  3. 「22年薪火相傳 15万人維園燭光悼六四」『東方日報』2011年6月5日
    http://orientaldaily.on.cc/cnt/news/20110605/00174_001.html
  4. 「6・4前夕 學生維園露宿體驗感受」『東方日報』2011年6月4日
    http://orientaldaily.on.cc/cnt/news/20110604/00176_018.html)。
  5. 映画『亡命』オフィシャルサイト(http://www.exile2010.asia/jp/index.html)。