中露国境経済調査(1)‐中露ウスリースク経貿合作区‐

|中国

今年9月はじめ、鄭雅英先生(立命館大学経営学部)、全永男先生(延辺大学日本語学科)とともにロシア沿海地方を訪問した。筆者はこれまで中国農村、農業問題を研究してきたが、昨年より文部科学省科学研究費(研究代表者:堀江典生、課題番号:21402019、研究課題名:「ロシア極東再開発の潜在力と限界:中ロ経済相互依存関係から見る諸課題」)メンバーに加えて頂き、中露経済関係を調査、研究する機会を得た。しかし、ロシア経済に関しては全くの素人で、まずは一度自らの目で見てみたいとの思いから、延吉より国際バスに乗り込み、琿春からロシアへ、その後ウスリースクで中露経貿合作区、中国人市場、卸売市場などを、ウラジオストクで物流企業を訪問、そしてスラビャンカ港、ザルビノ港、クラスキノ、ハサン地区などを訪問した。

ウスリースクの中国人市場、卸売市場では、中国人あるいは中国製品のパワーを感じた。中国人市場は、通りから見るとさほどの規模には見えないが、コンテナを積み上げ屋台にところ狭しと中国製品(衣類、革製品、日用品等)を広げた迷路のような市場が奥へ奥へと広がっている。また卸売市場では近郊で作られた農作物をはじめ、中国からの野菜、果物、米、加工食品などが、かつて日本で活躍したのであろう中古トラックで運び込まれ、売られていく。この卸売市場でも中国人と思しき人々の姿が目立った。

これに先立ち中露ウスリースク経貿合作区にも立ち寄った。この地区は中国が認可した19の国外経貿合作区の一つで、2006年に東寧吉信集団、浙江康奈集団、浙江華潤公司が約20億元を投資して、ウスリースクに建設を始めた。まだ工場建設途中で、「黒龍江日報」(8月5日)によれば、この夏新たに2社の縫製企業が進出し、現在建設中の企業とあわせ8社が進出を果たしている。黒龍江省牡丹江市東寧県はこの合作区とともに、華宇十月区工業園、中国内の東寧経済開発区の間で、「国境を跨ぐ連鎖加工」を構築し、30余りの中国南方の靴、縫製企業の誘致に成功し、生産高25億元、輸出入総額2億ドルを達成している。この「国境を跨ぐ連鎖加工」は、国内半製品→低関税対露輸出→合作区内での加工→ロシア及び他国への輸出と言うシステムで、例えば革靴は、完成品1足あたり輸出関税率は33%、コンテナ積載数は1.2万足であるのに対し、半製品では10%、3.1万足で、コストを大幅に削減することができる。この他にも中国側投資によるロシアでの工業区建設が進んでおり、また黒龍江省綏芬河市では総合保税区を建設中で、中露国境最大の輸出型産業の集積を目指しているが、このような中露国境を跨ぐ加工、物流体制が発展すれば、中露間のみならず、さらに韓国、日本など周辺国も巻き込んだ北東アジア地域の加工、物流体制の発展につながることも期待できよう。

しかし、ウスリースクの合作区内には生産や工場建設などにあたっている中国人労務者の宿舎があり、見る限りかなりの数の中国人が働いているようであった。さらに話を聞こうとしたがすぐにこの地区から出るように言われ、詳しい話を聞くことは出来なかった。近年ロシアにおいて中国人労働者に対する管理が厳しくなっているが、それが影響しているのかとも思われた。今回のロシア訪問前に綏芬河市、東寧県などを、また以前に延辺州政府商務局傘下の人材訓練学校(訓練後人材を海外へ労務輸出)を訪問し、ロシアとの経済・貿易関係について聞き取り調査を行ったが、その際度々耳にしたのはロシアへの労務輸出手続きの厳しさや費用の高さについてであった。綏芬河市政府戦略研究中心のある研究者は、1人の中国人労務者をロシアに送るのに約1万元もかかり、また企業に対する税、費用の徴収が厳しく、コストが高すぎると述べていた。中国は貿易摩擦の激化、外貨準備の増大、賃金の上昇などを背景に、中国企業の対外進出を促進するようになったが、この合作区で見られるように、多くの中国人労務者を伴い、建設・生産を行い、それをロシア国内や第三国へ販売する、あるいは中国人市場や卸売市場で見られたように大量の中国製品がロシアへ輸出されるのみでは、ロシアで高まる中国への警戒感は収まらず、さらに軋轢は深まるばかりであろう。またロシア側の中国人労務者への管理の強化や費用の高さ、中国での賃金の上昇、そしてロシア自体の労働市場としての魅力の問題など、中国人労務者の確保が難しくなる局面も出てこよう。今後如何にして相互発展体制を構築していくのかが大きな課題である。