中露国境経済調査(2)‐ウラジオストク~スラビャンカ~ザルビノ~クラスキノ‐

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多くの中国製品はどのように運ばれるのか。ウラジオストクで訪問したプリモールアフトトランス社ゴロヴェンコ副社長によると、琿春からのトラック輸送(約100台/日。後述のトロイツァ港株式会社によると、琿春からの通関ポイントであるクラスキノ国際ターミナルは小さく、車両約50台/日うちトラックは35台/日程度)、綏芬河からのトラック輸送(約160~170台/日)、そのほか綏芬河からの列車輸送(本数が少ないため保管料等コストが高く、トラック輸送の方が時間的にもコスト的にも便利)、松花江を利用した船舶輸送(夏季のみ)などが主なルートとしてあるようである。さらにこれらの地域では担ぎ屋や旅行者による輸送も盛んであるが、近年持ち込みの制限が厳しくなっている。この他東寧にも道路国際通関ポイントが設けられている。

黒龍江省や吉林省など港を持たない中国東北地域にとって、この地域の物流発展は今後の経済発展にとって重要な要素の一つと言えよう。今回琿春からロシアへ入ったが、琿春‐カムショーバヤ間には線路が通っている。しかし利用は現在されておらず、ロシア側で2011年以降中国標準軌、ロシア広軌双方乗り入れ可能な貨物ターミナルとしての整備が計画されている。中国側としてはザルビノ港など港まで中国側線路を伸ばしたいと考えているようだが、今回の訪問での感触では、ロシア側はそこまでの延長は受け入れ難い様子であった。またザルビノ港でコンテナターミナル整備が計画されており、その整備に中国企業の参加計画があるとされていたが、今回話を聞くことができたザルビノ港を管理するTRINITI BAI SEA PORT Joint Stock Company(トロイツァ港株式会社)は中国側の参加に否定的であった。ザルビノでは琿春-ザルビノ-韓国束草を結ぶ貨客船航路が2000年に東春航運(琿春と韓国の合弁会社)により開設されており、韓国人、中国人の中露国境通関の簡略化も実現している1

また、クラスキノを中心に展開する物流・観光企業、ベルクト社はポシエトでの木材加工(板材)を開始しており、加工木材をスラビャンカ港経由(ポシエト港は石炭を主に扱っており、石炭による木材への品質の影響を防ぐため)で日本、韓国等へ輸出する計画である。中国企業がこの木材加工に興味を示し協力を申し出ており、その他のハサン地区の木材加工企業に対しても調査を行っているとのことであった。プリモールアフトトランス社、そしてこのベルクト社は中国‐ロシア‐韓国/日本間でのトランジット輸送を計画中、あるいは実施中であるが、それに加え上述のザルビノ港コンテナターミナル整備計画、カムショーバヤ鉄道貨物ターミナル整備計画の他に、訪問したスラビャンカ港でも北側に新たに木材加工・輸送ターミナルを整備・拡張しており、さらに中露間のみならず日本、韓国等第三国への展開など、いくつかの加工業発展、物流整備・発展の取り組みを聞くことができた。そしてこのような動きに中国側政府、企業が積極的に関与し、その発展、拡大を図っている動きの一端も垣間見ることが出来た。中国はこの他に北朝鮮の羅津港等の港湾を利用した物流の展開、道路整備などへの協力も進めており、中国側の日本海側港湾利用とその整備への積極性がうかがえる。

印象的であったのは、日本の存在感の薄さである。ザルビノ港では鳥取の境港からダイハツの新車が運び込まれ、その輸送量も当初計画の1万3,000台/年から2万台に拡大し、定期便も月2便から10月より4便に増加する計画(訪問時)で、ザルビノから専用列車で中央ロシアへ運ばれるとのことであった。しかし、自動車輸入規制が実施されて以降全体として新車・中古共にその輸入は減少しており、その他日本からの貨物は食品や化粧品など日用雑貨が多く、貨物量もさほど多くないとのことであった。限られた調査訪問であったが、度々聞かれたのが日本側からの貨物の少なさ、あるいは日本側の関心・関与の低さであった。日本への航路はこれまで開設されつつも貨物量の少なさなどから打ち切られたり、運休されており、安定した定期輸送の確立には至っていない。琿春に工場を持ち、日本海横断航路開設に積極的に取り組んでいる小島衣料によると(2009年8月訪問)、2009年にザルビノ-新潟-束草間で週1便の定期輸送が開設され2、これを利用すれば琿春からザルビノまで約1時間~1時間半、通関を含め約3時間、ザルビノから新潟まで約22時間、朝出荷すれば翌日夜には日本に荷物が着き、翌々日には店頭に商品を並べることができるとのことであった。しかし訪問時すでに一時中断しており、8月19日より再開予定とのことであったが、やはり安定輸送には心配が残る。コスト面でもまだ問題が多く、原材料の輸入は日本から大連経由で約1週間かけて行っており、日本との輸送は従来通り大連経由が当面主となるだろうとのことであった。

ロシア自動車会社ソレルスと三井物産が設立した合弁会社が2012年始めに設立するウラジオストクの工場に、トヨタ自動車が乗用車(SUV)組み立てを委託し、当面は部品を日本から供給するとの計画が3月に発表された。物流発展にはインフラ、路線の整備とともに、それを利用するモノの流れが活発化する必要があり、この地域への企業の進出・発展がその重要な要素となろう。東南沿海地域に比べ発展が遅れている中国東北地方では、東北振興政策が実施されており、さらに停滞していた図們江開発に関しては、2009年8月に長吉図(長春・吉林・図們)を開発開放先導区とする戦略が国務院で承認された。こういった開発・開放政策にとってもこの地域の物流発展は重要な鍵であり、近年中朝露国境地域における経済交流・協力、インフラ整備計画も進行しつつある。これらの機会を周辺国・企業が如何にとらえることができるのか。そしてそこに日本がどのように関わっていけるのか。今後の展開が注目される。


  1. 鄭雅英(2010)「中国・図們江開発計画の新展開-先導する『長吉図』と『延龍図』-」大阪市立大学経済学会『経済学雑誌』第111巻第3号
  2. 日本海横断航路への取り組みについては、及川英明「日本海横断航路計画の推移と琿春の投資環境」(社)大阪能率協会・アジア中国事業支援室編『北東アジアに激変の兆し~中・朝・ロ国境を行く~』第2章に詳しく紹介されている。
* 本文のもとになった現地調査は、文部科学省科学研究費(研究代表者:堀江典生、課題番号:21402019、研究課題名:「ロシア極東再開発の潜在力と限界:中ロ経済相互依存関係から見る諸課題」)の研究の一環として行った。ロシアへは鄭雅英先生(立命館大学経営学部)、全永男先生(延辺大学日本語学院)とともに、その他中国側調査では辻美代先生(流通科学大学商学部)と調査を行ったが、本文はそれら調査に基づく筆者の個人的見解によるものである。