中国東北部からのメッセージ (3)

|中国

最近の流れ

今を去ること7年前の2004年、中国東北部には日本の各自治体や経済団体、事業進出検討企業など多くの来訪者があった。開設したばかりの伊藤忠瀋陽事務所も多くの来訪者に恵まれた。皆一様に、2003年に発動された東北振興政策の狙いと見通し、投資先としての優位性などを自分の目で確かめたいとの熱い気持ちを持たれていた。

爾来、私が駐在していた6年間、この流れは途切れることはなかったものの、連絡事務所の開設や投資事業実現への歩みは遅々としたものであった。されどここに来て、瀋陽や長春への日系進出企業は増加の動きにあり、両地の日本人会も新入会員で賑わっている。

日本の海外進出企業では海外事業からの収益貢献度が増している。その半分以上がアジア、且つ中国の占める割合が急拡大している。最近、日本の各経済団体が主催する各国投資事情説明セミナーでは、インドやベトナムといった新興国への関心が高まっているが、「中国の次はやはり中国」という意見も多く聞かれる。東日本大震災後の生き残りをかけたグローバルな見地での生産体制見直しの機運と共に、中国東北部にもこれまで以上に熱い視線が注がれることを期待している。

地図をさかさまに見てみよう

瀋陽事務所への来訪者に対し、私は熱意をこめて現地事情を説明した。その中で皆様が「なるほど!目からうろこ」といってくれたのは地図を逆さまに見ることによる視野の転換である。

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  • 中国東北部の人々の眼線は、南の方向に向いていると思われる。中国東北の3省都は、緯度で見ると丁度北海道を真西に移動させた位置関係にある (瀋陽=函館、ハルピン=稚内)。中国東北部最大の都市瀋陽を野球の捕手の位置におくと、一塁が北京、投手が大連、二塁が青島、三塁がソウルである。目の前に広がるのが環渤海経済圏。政治的にも経済的にも瀋陽の立地条件は極めて戦略的な位置づけにある。
  • 一方、南の遼寧省と北の黒龍江省に挟まれた吉林省は海なし省。大連経由での日本への物流は遠い。南に向かって左手方向にあるロシアの港から日本海ルートへの展開が実現できれば、日本との距離は急接近する。
  • 中国最北端の省、黒龍江省はロシアとの友好関係維持が最注力事項である。ハルピンでの各種催し物はロシア一色。日本の企業の進出も10数社から伸びていない。日本の企業が黒龍江省での事業を決定する際の優位性が、まだ見出しえない。

伊藤忠の取り組み

中国東北部全体の産業動向やパートナー企業の実力、交通を含む各種インフラの整備状況など、全体像を掌握した上で、様々なビジネススキームを展開中である。2004年事務所組織でスタートした瀋陽やハルピンは事務所から分公司に形を変え、国内外の貿易業務ができるようになった。ようやく親(本社)か らの仕送りに頼らず独り立ちできたという意味である。収益性が高く足の速い案件に照準を絞らざるを得ないが、各種資源に恵まれた東北部はビジネスチャンス の宝庫であると認識している。

1) 遼寧省

  • 遼寧沿海経済ベルト発展計画や瀋陽経済区計画の拡充が着々と進んでいる。中国有数の生産拠点且つ消費市場であり、GDPの伸びも他二省を凌駕する。
  • 伊藤忠は、大連近郊の長興島でのエコアイランド計画(汚水処理とリサイクル事業を展開中)や東北大学との産学提携による金属加工事業や交通情報システム及び中小企業や農民への短期融資を手がける消費者金融業を立ち上げた。
* 因みに瀋陽では不動産ラッシュが続いている。製造業の進出によるGDPの伸びを期待する瀋陽市政府としては痛し痒しの面はあろうが、日系企業だけでも、鹿島建設/積水ハウス/三菱地所/東京建物などの駐在員の姿が増えてきている。

2) 吉林省

  • 吉林省は、第12次5カ年計画で、自動車生産を従来の3倍である400万台とすることを発表した。現在のトヨタ自動車の日本国内生産量を凌ぐ大自動車生産基地建設を狙う吉林省に、世界中から熱い視線が注がれている。またトヨタ自動車が、2012年度に、長春での10万台増産プロジェクトの立ち上げを発表したことが引き金となり、日系各社の長春への注目度が急速に高まっている。
  • 伊藤忠は長春で自動車関連事業3社を持っている。国有色が強く閉鎖的、且つ他国に比べ出遅れ感のあるこのマーケットへの日系企業の不安感も根強いが、伊藤忠は、進出予定企業の良きパートナーとして、中方パートナーの紹介や新規市場の開拓など、日系企業にとっての最後のフロンティア市場への橋渡し役に努めている。

3)黒龍江省

  • 中国最北端の省である黒龍江省は、全国有数の天然鉱物資源と農畜産資源の宝庫である。
  • 伊藤忠は、中国SIS(Strategic Integrated System)戦略を展開中である。川上から川中・川下まで、つまり食料の生産から加工・供給まで、商社機能をフルに発揮した事業を展開している。川上分野では、黒龍江省農墾総局とパートナーシップを組み、有機野菜などの食糧資 源供給体制作りに注力、川下分野では、伊藤忠が出資するスーパーやコンビニなどの小売資本を拡充している。中国では日本以上に食料の安全安心への関心が高い。伊藤忠の活動を通じ、中国の人々への大きな貢献ができればとの想いがある。

中国東北は官が民を主導する体制が極めて顕著である。経済勃興に向けての官の方々の努力には本当に敬服する。伊藤忠は官の協力の下、良きパートナーを選別し、案件の結実をめざし注力を続けている。

今後の関心

中国東北部の発展には物流網の開拓と整備が急務である。それが、日本の東北や北海道地方にとっての恵みにも繋がっていく。国土交通省は日本海拠点港の整備に注力中だが、現状の大連港迂回ルートは輸送距離面で大きなハンディを負っている。現在、日本海沿いの各港と、韓国、ロシアを結ぶ三角ルートがスタートしているが、往復貨物の玉不足やロシア通関の不便さもあり、活況を呈するにはまだまだ時間が掛かると思われる。

一方中国の民間企業である中国大連創力集団は北朝鮮の羅津港を借用した日本海貿易を始めており、また吉林省も同じ羅津港を租借し、琿春の低カロリー石炭を暖房用として上海に送っている。中国は羅津港を日本海貿易の拠点として活用し、ロシア・韓国も間違いなく追随してくると思われる。日本がこの港を活用し、中国東北への風穴を開けることができれば理想的であるが、北朝鮮との国交正常化という大きな壁が立ちふさがっている。