3期目のダリキン知事―「優れたロビイスト」の抱える諸問題

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大規模インフラ建設が進む沿海地方では、2010年2月からダリキン知事が3期目の任期を務めている。前年までは再任を危ぶむ声も多かったものの、無事再任を果たして以降、同知事の「優れたロビイスト」としての評価は急速に高まっていった。沿海地方では、APEC関連施設だけでなく、外資や合弁による造船所、自動車工場、ホテルなどの建設計画が次々に発表され、またウラジオストクにはウラル以東で初の「軍事名誉都市」の称号が与えられることとなった。ダリキン知事は「ウラジオストク名誉市民」の1人に選ばれ、現在建設中の金角湾横断橋を「ダリキン橋」と名付ける案さえ現れた。

とはいえ、ダリキン知事が再任を果たすことができた主要な理由は、結局のところ、APEC開催という国家的プロジェクトに向けて、関連施設の建設を首尾よく実行し同地の政治的安定を維持するために、彼を外すことができなかったということである。そうした要因が無ければ、知事のかつての部下たちの多くが逮捕・起訴されるという状況下で、連邦中央が彼を解任することは簡単なことだっただろう。

その意味では、沿海地方は彼を通じて連邦中央のより一層強いコントロールの下に置かれることになったのだともいえる。2009年11月の極東ザバイカルプログラムの改訂により、ウラジオストク開発における沿海地方の負担分は倍増され、このため2010年度の沿海地方予算は一層の赤字予算を強いられることとなった。地元には、ダリキン知事が自らの再任と引き換えにこうした負担増を引き受けたのではないかという疑いがある。より露骨な例は、沿海地方執行権力機関代表上院議員の任命の経緯である。2010年3月、ダリキン知事はこのポストに、沿海地方議会の税財政政策財源委員会議長であるアホヤン議員を候補として推薦した。しかし、沿海地方議会での人事の承認も済ませた後に、突然理由もなくこの推薦は取り下げられ、代わりに推薦されたのは、連邦内務省人事保障部部長で陸軍中将のキコチであった。地元紙『ゾロトイ・ログ』はこの経緯を、「人民に近づくことを演じようとする政権側の全ての試みを帳消しにするものだ」として痛烈に批判している。

「統一選挙日」となった2010年10月10日、沿海地方では26の市・地区に加え、数多くの市町村で首長・議会の選挙が行われた。ここで「統一ロシア」は全体の票の69.8%を獲得したが、ラゾ地区で同党が推薦した47人の候補のうち37人が地元選挙委員会によって候補者資格を取り消されるなど、同党沿海地方支部の選挙戦略には多くの不備が指摘された。投票率は軒並み前回の統一選挙の際のそれを大きく下回り、とりわけウラジオストク市議会補選の投票率は7.85%という記録的な低さとなった。しかも同補選では、共産党やヤブロコなどの野党が推したヴェリゴツキーが、統一ロシアや自民党の候補を抑えて当選した。一年後に連邦議会下院選や沿海地方議会選を控えた選挙でのこうした結果は、連邦中央にとっての懸念材料となろう。

派手なロビーイング能力を誇示したダリキン知事であるが、地元におけるその社会政策には厳しい目が向けられている。ウラジオストク開発への負担増のあおりを受け、沿海地方の2010年度予算からは、学校給食への予算や教員など公共部門の職員の給与、退役軍人や障害者の交通機関利用への補助、暖房供給機関への支援など、諸々の社会予算が大幅に削られることとなった。ダリネゴルスクの化学企業「ボール」で給料遅配を原因とする大規模なデモが繰り返し起きるなど、社会不安の火種はくすぶっている。人口の流出・減少への有効な対策を打ち出せていないことへの批判も強い。建設の進む造船所や製油所、APEC関連施設やホテルなどの操業を担う適切な人材を十分に確保していけるのか、地元専門家は懸念を示している。連邦による大規模投資が一段落した後にも沿海地方が自立した発展を続けていくための環境を整備していくことができるのか。そうした手腕を発揮できるかどうかが、APEC後のダリキン知事のキャリアを左右する要因としても、今後一層問われていくことになるだろう。