ウラジオストクにおける「シティ・マネージャー制」導入の動き

|ロシア

今年2月、ウラジオストク市議会で「統一ロシア」所属のペニャジ議員が提出したウラジオストク市憲章の改正法案は、大きな話題となった。この法案は、ウラジオストク市長の公選制を廃止し、いわゆる「シティ・マネージャー制」を導入するものであった。この法案は、ペニャジが委員長を務める地方自治・法秩序・適法性委員会で審議され、その結果、2月末に第一読会で採択すること、また3月に公聴会を実施することが決議された。

ロシアにおけるシティ・マネージャー制は、2003年に新たに制定された「地方自治一般原則法」において制度化され、以後、採用する地方自治体が拡大した。20世紀初めの米国に起源を持つこの制度は、議会が行政の長としてシティ・マネージャーを任命するという、議会優位の一元代表制となる制度であり、現在の米国では中小規模の地方自治体の多くで採用されている。

2003年の「地方自治一般原則法」によれば、地方自治体の首長は、住民の選挙による選出のほか、議会によって議員の中から選出することもできる。後者の場合には、その首長は当該議会の議長となり、行政府の長には、公募によって選ばれ地方自治体との契約に従って任命される「地方行政長」すなわちシティ・マネージャーが就くことになる。地方行政長の選考を行う委員会は、3分の2が当該地方自治体議会の議員によって任命され、3分の1はその自治体の上位の連邦構成主体の知事の提案に従って連邦構成主体の議会によって任命される。同委員会の選んだ候補者の中から、地方自治体の議会が任命し、首長との間で契約が締結される。

この制度の導入により、地方行政長は次期選挙での再選への懸念や行政府・立法府間の対立といった政治的要素に左右されず、効率的な統治を行うことが可能になるとされている。とはいえ、そこでは当然、権力の分立によるチェック・アンド・バランスや民主主義的な要素は犠牲にされる。2005年以降、連邦構成主体の首長についても公選制が廃止されており、同制度はこうしたプーチン政権以降の「垂直的権力」強化の流れに沿ったものである。2009年には、すでにロシア国内の約9000の地方自治体でこの制度が採用されたといわれる。極東地域では、ウラジオストクに隣接するボリショイ・カーメニ市が最初にこの制度を導入した地方自治体となった。ただし、同市は数年でこの制度を廃止している。

ウラジオストクは住民の政治意識が強い都市であり、とりわけ連邦中央への不信が強い。先述のペニャジの法案は、地元の住民や野党、識者から強い反発を招いた。早くも委員会での審議の翌日には、自由民主党の主導で「我々から選挙権を奪うな!」というスローガンを掲げたピケが市内各地で張られ、地元メディアやインターネット上でも多くの批判の声が巻き起こった。こうした大きな反響に直面したペニャジは、法案を他のすべての委員会でも審議することを提案したが、最終的には法案の審議は棚上げにされた。同法案について、統一ロシア会派を率いるポポフ副議長は、「世論を積極的に参加させた形で子細に検討することが必要だ」と語っている。統一ロシア沿海地方支部は、公式には同法案に否定的な立場をとっている。

しかし、法案が棚上げとなった後もこの問題への関心は消えていない。市議会の野党議員たちは、そもそもペニャジの法案提出は彼の個人的なイニシアチブによるものではなく、統一ロシア沿海地方支部の指導部が了解した上で進められたものだと考えている。無所属のマルコフツェフ議員は、法案の棚上げは12月の選挙の前に住民の反発を受けたくないための一時的退却であり、選挙後に統一ロシアは再度この法案を出してくるはずだと語っている。このイニシアチブの背景には、プシカリョフ・ウラジオストク市長を排除したい沿海地方行政府や地元ビジネス界の有力者などが取り沙汰されている。

ロシア各地のシティ・マネージャー制の導入も、実際には多くの場合、地方自治体の行政府・立法府間や、連邦構成主体・地方自治体間の政治的対立を背景としている。とりわけ、ロシアでは各地の連邦構成主体とその首都である地方自治体との利害対立が政治的な紛争をもたらしてきただけに、こうした首都における導入は重要な政治的意味を持つ。沿海地方とウラジオストク市の関係はその典型であり、沿海地方知事とウラジオストク市長は地元利権をめぐって常に対立してきた。そのため、ウラジオストクでこの制度が導入されれば、沿海地方の政治に大きな転換をもたらすことになろう。特に、ウラジオストク市議会と統一ロシア沿海地方支部はダリキン知事の強い影響力の下にあるため、この制度によって沿海地方行政府は市行政府に対する大きな政治的優位を確立することができる。

4月には、極東連邦管区全権代表のイシャーエフが、極東連邦管区のすべての地方自治体でシティ・マネージャー制を導入すべきと発言して注目を集めた。イシャーエフによれば、契約による地方行政長たちは解任することがより容易であるため、むしろ自律性の高い公選市長たちよりも住民の要望に応える強い責任が生じているという。そして、ブラゴベシチェンスクやペトロパブロフスク・カムチャツキーといった都市でシティ・マネージャー制が導入されている例を挙げ、特に連邦構成主体の首都において、この制度を導入し、より効率的な統治と「垂直的権力」の強化を実現する必要があると主張している。

沿海地方では、7月にダリネゴルスク市で、また9月にアルセニエフ市で、シティ・マネージャー制を導入する市憲章改正法が採択された。今後の広がり次第では、この制度は沿海地方の政治情勢を規定する重要な要因となっていくであろう。