「朝鮮半島縦断鉄道プロジェクト」

NHKラジオ第一放送「ラジオあさいちばん」
 放送

Q: 北東アジアの話題から、今朝は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と韓国の南北協力プロジェクトとして期待される朝鮮半島縦断鉄道の連結について、ERINA(環日本海経済研究所)主任研究員の辻久子さんにお聞きします。辻さん、おはようございます。
(辻) おはようございます。
Q: 最近また北朝鮮との対話が進められようとしていますが、南北鉄道を連結しようとする動きは今どうなっているのでしょうか。
(辻) かつて朝鮮半島には南北を縦断する2本の幹線鉄道がありました。一つは西海岸を、釜山~ソウル~平壌~新義州~中国遼寧省を結ぶもので、京義線と呼ばれていました。もう一つは主に東海岸を通り、ソウル~元山~羅津を結ぶ京元線で、中国の吉林省やロシア沿海地方へと繋がっています。
西海岸の京義線は軍事境界線を挟んで、南北12kmづつの分断区域がありました。これを復活させることが南北で合意され、韓国側はほぼ工事を終えています。しかし北側の工事は遅れており、また、非武装地帯の鉄道建設に当たっては地雷除去などの問題もあります。幸い、西海岸沿いは平坦な上、北朝鮮の平壌以北は単線ながら使用されており、南北の協力次第では早い時期に連結されるでしょう。京義線が連結された場合、首都ソウルと平壌、さらには中国東北部が結ばれ、海上輸送されていたものが陸上輸送されるようになり、時間的にも費用面でも、大きな経済的価値があると見られます。
Q: 東海岸の方はいかがですか。
(辻) 東海岸の京元線の場合、軍事境界線を挟み、約30kmの分断区間があります。京元線についてはロシアと北朝鮮の技術者による調査が行われましたが、連結区間は山岳地帯が多くを占めるため大掛かりな工事が必要です。さらに、北朝鮮の既存の鉄道もトンネル、橋梁をはじめ、施設の状態が非常に悪く、補修にも巨額の費用が必要と見られることから建設構想が後退しています。
京元線に代わって浮上してきたのが、東海岸沿いに釜山~元山~羅津を結ぶ東海線構想です。今年4月に韓国の林東源特使が平壌を訪問した際の同意項目の中に、東海岸沿いに鉄道と道路を連結することが盛り込まれました。ただし、韓国側に断片的にしか鉄道が無いために、釜山~軍事境界線を結ぶには、合計で約300kmの鉄道敷設を行う必要があります。また、既存の北朝鮮側鉄道の近代化工事も必要になると見られています。
Q: そういう東海岸の鉄道が同意項目に盛り込まれたのには、何か狙いがあるようですが。
(辻) 東海岸線を国際輸送に利用する可能性が考えられます。
一番目は中国吉林省へ繋ぐ構想です。これは北朝鮮の図們江地域の清津や羅津と吉林省・延辺州を結ぶ既存の鉄道網を利用するもので、韓国東海岸と吉林省が鉄道で結ばれることになります。吉林省東部の延辺州には朝鮮族が多いこともあって韓国企業が多数進出しており、現在、海上輸送に依存している韓国貨物が陸路運ばれる可能性があります。
二番目はロシア沿海地方へ繋ぐ構想です。これは既存の北朝鮮の羅津とロシア沿海地方のハサンを結ぶ鉄道を活用してシベリア鉄道に繋ごうというもので、ロシア鉄道省は韓国貨物を北朝鮮経由でロシアへ輸送することに大きな関心を示しています。
Q: シベリア鉄道と朝鮮半島縦断鉄道をリンクすることで、ロシア側はどんなメリットを考えているのでしょうか。
(辻) 現在、韓国発着で海上輸送を経由しシベリア鉄道に乗るコンテナ貨物が、20フィート換算で年間約8万個程あり、ロシア西部、フィンランド、中央アジアなどを結んでいます。ロシア鉄道省は現在韓国と沿海地方港湾と結んでいる海上輸送部分を鉄道に置き換えることにより、何とか通し料金を押え、スエズ運河経由の海上輸送の価格攻勢に対抗できるのではないかと考えています。
Q: 競争力を持った、新しい輸送回廊が展望できるのでしょうか。
(辻) もちろん、いくつかの課題があります。線路幅が違うため朝ロ国境で積替えが必要となること、鉄道建設や施設の近代化は広範に及ぶこと、韓国貨物に対して北朝鮮が通過料を要求したり、韓国国内の鉄道料金もかなり高いと言われています。今後、韓国企業も製造拠点を他のアジア諸国に移し、韓国発着貨物が減少する可能性もあります。多くの問題が指摘されていますが、既存のルートと新しいルートの間に競争が生まれれば、輸送サービスは改善され料金は下がります。
南北鉄道の連結が朝鮮半島の安定に寄与することは言うまでもありません。
Q: わかりました。辻さん、今朝はどうもありがとうございました。