「シベリア石油パイプラインをめぐって」

NHKラジオ第一放送「ラジオあさいちばん」
 放送

Q: 今朝は、北東アジアのエネルギー協力について、ERINA研究主任の新井洋史(あらいひろふみ)さんにお聞きします。
(新井) しばらく前の話になりますが、今年1月に小泉総理がロシアを訪問した際に、ロシアのシベリアから日本海まで石油パイプラインを建設する構想に日本が協力するという方針が発表されました。
まず最初にこの構想について少しおさらいをしておきますと、シベリアのバイカル湖に近いアンガルスクという町からナホトカ港まで、総延長約3,800kmのパイプラインを建設しようというもので、ロシア国内では以前から検討されていました。総工費は約50億ドルで、年間5,000万トンの原油を輸送する計画です。これは、日本の輸入量の約2割にあたる量です。日本は原油輸入の88%を中東に依存していますので、これを改善するためには、非常に意義のあるプロジェクトです。
ただし、この構想を実現するには、石油の埋蔵量が十分あるか、採算性がとれるのかといった検討が必要ですし、それ以外にもさまざまな問題をクリアしなければなりません。
Q: と、いいますと、どういうことでしょうか。
(新井) いくつかの要素を考えないといけないのですが、今日は3つの問題に触れてみたいと思います。1つ目は中国との関係、2つ目は天然ガスとの関係、そして3つ目はロシアの国内問題です。
まず始めの中国との関係ですが、これについては1月にこの構想が報道されたときにも話題となりましたので、ご記憶の方もいらっしゃると思います。同じアンガルスクから中国・黒龍江省の大慶という町まで石油パイプラインを建設する計画がありました。実は昨年12月には中国・ロシアの関係企業の間で最終的な合意に達して、事業が始まるのではないかと言われるくらい話が進んでいました。それが1月以降、一回仕切り直しのような形となりまして、現在、モスクワでは関係省庁や企業などがルート選定作業を続けています。いまのところ、途中まで1本のパイプラインを引いて、そこから中国向けとナホトカ向けを分けるという案が有力だと言われています。最終的には、5月にロシアとしての方針決定がなされる予定です。ただ、その後も中国側と原油の価格なども含めた交渉を行う必要がありますので、どのような結果になるかはまだわかりません。
次に2つ目の天然ガス開発についてですが、こちらもシベリアのバイカル湖の近くのコヴィクタというところにある大規模なガス田が一つの起点となります。ここから中国や韓国、さらには日本までパイプラインで天然ガスを輸送しようということが考えられています。天然ガスは比較的クリーンなエネルギーとして期待されていることもありまして、関係各国による検討が続いています。ところが、ここでは輸送コストが高くなってしまうという問題があります。ガスの値段が高くなってしまえば、買い手が付きませんので、事業が進みません。そこで、今回の石油のパイプラインと一緒に建設すれば、両方ともコストを下げることができるのではないかということが期待されるわけです。
Q: もう1つ、ロシア国内問題があるというお話でしたが、こちらはどういう状況なのでしょうか。
(新井) この問題は、さらに2つに分けることができます。1つは地域の問題で、もう1つはビジネスの問題です。ハバロフスク地方や沿海地方などロシアの極東地域はエネルギー資源が十分ではなく、現在はシベリアから鉄道を使って石炭や石油を運んできて使っています。何年か前の冬に、ウラジオストクでエネルギー不足になり市民が凍えるといったことがありましたが、安くて安定したエネルギー供給というのはこの地域にとって切実な問題です。その意味でパイプラインには大きな期待があるわけです。もちろん、安い値段で供給するということになると必ずしも事業の採算性を高めることにはなりません。それでも、政治的な意味では、パイプライン構想の大きな応援団になるはずです。問題は、各論になった時に各州ごとの事情で利害が異なってくることがありうるという点です。
もう一つの、ビジネスの問題というのは、ロシア国内の各石油会社の利害関係です。現在ロシアの石油パイプラインの建設・運営は「トランスネフチ」という国営会社がほぼ独占的に扱っています。これに対して、中国へのパイプライン構想については、「ユーコス」というロシア第2の石油会社が主導権を握っていて、両者の駆け引きがあると言われています。このほかにも、このパイプラインを使って石油を輸出したいと考えている石油会社もあります。
Q: わかりました。なかなか複雑な問題が絡んでいるわけですね。
(新井) そうですね。ただ、今回のイラク戦争などに見られるように、中東の石油に大きく頼ることはリスクも大きいわけで、その意味ではロシアのエネルギー資源というのは、日本にとって重要な意味を持っています。韓国もエネルギーを輸入に頼っていますし、中国も石油の輸出よりも輸入の方が多くなってしまっています。北東アジアの各国では、エネルギーの安全保障という問題を、共通の問題として捉えて協力していこうという機運も高まっていますので、全体としてはさまざまなプロジェクトが進展していくものと期待しています。
Q: わかりました。今朝はありがとうございました。