「『待ち』の姿勢から『攻め』の姿勢へと変わったロシア極東の観光客誘致について

NHKラジオ第一放送「ラジオあさいちばん」
 放送

Q: 今朝は、日本からの観光客誘致に関して、「待ち」の姿勢から「攻め」の姿勢へと変わったロシア極東の状況について、ERINA研究主任の新井洋史(あらいひろふみ)さんにお聞きします。まず、具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか
(新井) 一例を挙げますと、日本におけるPRに力を入れ始めています。これまで日本国内でロシア極東に関する情報があまりにも少なかったという反省に基づいて、今年10月1日に東京でハバロフスクの観光を紹介するセミナーを開催したり、10月3日から5日まで横浜で開催される「世界旅行博」に出展したりする計画があります。
Q:  確かに、ロシア極東といわれてもあまり観光地というイメージがありませんね。実際には、どんなところなのでしょうか
(新井) まず言えるのは、日本から一番近いヨーロッパだということです。日本からの直行便が飛んでいるウラジオストク、ハバロフスク、ユジノサハリンスクといった町までは、1時間半から2時間くらいで到着します。それぞれ町の中心部は、19世紀の終わりごろから20世紀はじめころに建てられた趣のある建物が並んでいます。ロシア極東は緯度が高いので、夏は日が長く夜10時くらいまで日が沈みません。市民も目抜き通りや公園の散策を楽しんでいますし、オープンカフェでビールグラスを傾ける姿も多く見られます。日本から短時間の飛行で、こうしたヨーロッパの町並みの散策が楽しめるというのが魅力だと思います。
また、町を離れれば、広大な手付かずの自然が広がっています。釣りや狩り、あるいはトレッキングなど、いわゆる「エコツアー」といわれる自然と親しむ旅行を楽しむことができます。
Q: お話をうかがうと、多くの観光客が集まりそうな気もするのですが、日本からの観光客はまだ少ないのですね?
(新井) ロシア極東というくくりでまとめたデータは無いのですが、年間2万人くらいではないかと推測しています。中国や韓国には200万人以上が訪問していますから、約100分の1ということになります。
日本人がロシア極東にあまり行っていない理由については、2つ述べたいと思います。ひとつはイメージの問題、もうひとつは受入体制の問題です。ソ連が崩壊して10年以上経ちましたので、さすがに最近は旧ソ連時代のように「恐い国」というイメージは少なくなったようですが、「モノ不足に苦しむ混乱した国」といったイメージがあるのではないかと思います。お話にもあったように、「観光地」とはみなされていないわけです。
もうひとつの問題は、日本人の観光客を受け入れる体制が不十分だという点です。日本人が泊まれるようなホテルや食事をするレストランなどの数は、限られていますし、接客などのサービスについても日本人観光客が望むレベルには程遠いのが現状です。航空運賃やホテル料金などの設定が硬直的で、格安ツアーなどを組むことができないという問題もあります。
Q: せっかく魅力的な場所なのにもったいないですね。そうした事情もあって、現地で日本人観光客を呼び込むための取り組みを強めているわけですね。
(新井) その通りです。現地の人たちも、観光客誘致は手っ取り早い外貨獲得の手段であるという認識は持っていたのですが、これまでは「こんなにいいところなのに、なぜ日本人は来てくれないのだ」という態度だったわけです。しかし、最近になって主体的に行動を起こすようになってきました。
先月訪問したハバロフスク地方でも、積極的に取り組みを進めていました。冒頭紹介したセミナーの開催もそのひとつですし、日本語のガイドブック作成なども行って、イメージアップのための情報発信に努めています。
また、観光客受入体制づくりも進んでいます。一番目立つのは、目抜き通りがきれいになったことです。もともと趣のある建築物が立ち並んでいたのですが、手入れが十分ではなかったため、汚れや傷みが目立っていました。これを2~3年かけて修復し、あわせて歩道や植栽もきれいにしました。この他にも、大きな池のある美しい公園が整備されましたし、さらにいくつかの公園が修復工事中でした。
それから、今回いくつかのホテルを見学しましたが、グレードの高いホテルができていたり、昔からあるホテルも客室の改装がなされていたりしました。
このほかにも、郊外に観光施設の整備が進んでいるとのことでした。現地の少数民族の文化や暮らしに触れることができる施設や傷ついた野生動物のリハビリセンターなどが既にできていて、日本人のツアーコースに入っているそうです。
これに対して、料理の質や接客サービスなど、ソフト面の改善は、もう少し時間がかかるかもしれません。日本人は非常に細かいところを気にしますので、それに対応したサービスが求められるわけです。現地の旅行業界で仕事をしている方々皆がそうした感覚を身に付けるのは、一朝一夕には実現しないでしょう。ただ、積極的に日本に学びたいという意欲が出てきているので期待は持てます。
Q: 早く「気軽に行けるヨーロッパ」になるといいですね
(新井) 是非、そうなってもらいたいと思います。ただ、ハバロフスク地方政府の担当者はかなり現実的な物の見方をしていました。最初は「釣り」や「少数民族文化」など特定の関心がある人に来てもらうような形で、その後客層の幅を広げていきたいと話していました。インターネットなどでも、少しずつロシア極東の情報を紹介するページも増えているので、関心のある方はごらんになってはいかがでしょうか。
Q: どうも、ありがとうございました。