「シベリア石油パイプラインプロジェクトの現状と課題」

NHKラジオ第一放送「ラジオあさいちばん」
 放送

Q: 来月、ロシアのサンクトペテルブルグで主要国首脳会議が開催されますが、ホスト国となるロシアは、エネルギー問題を主要な議題として取り上げようとしています。日本とロシアの間でもエネルギー協力が進められていますが、今朝はシベリアからの石油パイプラインプロジェクトの現状と課題について、ERINA=環日本海経済研究所の新井洋史(あらい ひろふみ)さんにうかがいます。新井さん、おはようございます。このパイプラインプロジェクトの現状はどうなんでしょうか?
(新井) このプロジェクトは2003年1月に小泉総理がロシアを訪れた際、ロシアの東シベリアから沿海州までの石油パイプライン建設に日本とロシア両 国が協力していくことを表明しました。そして、2004年12月には、このプロジェクトが正式に承認されました。その後、「トランスネフチ」という、国営のパイプライン会社が具体的なルートの検討を行ってきました。実は当初の予定では、今頃はルートが確定し、2008年末の完成に向けて、工事が進められているはずでした。

確かに、今年4月28日に一応工事が始まったのですが、問題を抱えたままの見切り発車といった形でした。

Q: なにか問題があるのでしょうか。
(新井) 環境保護と建設コストのバランスが大きな問題となっています。なかでもバイカル湖周辺の区間と日本海への積出港の位置です。このうち、バイカル湖周辺では、地元関係者や環境保護団体が、油流出事故などによりバイカル湖が汚染されることを強く懸念してきました。トランスネフチ社がロシア政府に提出した案は、一番近いところで湖から800mしか離れていないというものでした。この案は、今年3月に一旦政府の審査をクリアしたのですが、しかしその後、4月26日に開催された公開の会議の場で、プーチン大統領は、同席したトランスネフチ社の社長に直接ルート変更を命じました。これは、建設開始予定日のわずか2日前という突然のことでした。トランスネフチ社は、急遽、バイカル湖を大きく迂回するルートを検討し始めました。今年の秋ごろまでに、結論を出すことを目指しているようです。

積出港については、有力視されていたペレボズナヤ湾というところが自然保護区に近いということで、他の候補地も含めて、再検討が行われているところです。

Q: このパイプラインプロジェクトでは、中国との競合関係というものも指摘されていますね。
(新井) 中国とロシアとの間でもエネルギー協力は重要なテーマとなっています。中国東北部の黒龍江省にある大慶油田はかつて日本にも石油を輸出していた中国を代表する油田の一つでしたが、最近は採掘量が減ってきています。関係者は、ロシアからの原油で、この減産分を埋め合わせることを考えています。
Q: 日本だけでなく中国もシベリアの石油に期待をしている形になっているわけですね。
(新井) そうですね。これに関して問題だと感じているのは、日ロあるいは中ロの首脳会談などが行われるたびに、日本は中国に負けそうだとか、あるいはその逆だとかという論調が多く目に付くことです。こうした日本と中国の間の対立構造を必要以上に強調した見方は避けるべきだと思います。日本・中国・ロシアに韓国も加えた北東アジアのエネルギー安全保障という観点から見る必要があるというのが我々の考え方です。中国国内の石油需要の一部がシベリアの石油で満たされれば、他の油田、例えばサハリン沖の油田で、中国が日本や韓国と競合する場面は少なくなるので、日本や韓国にとってもメリットがあると考えるわけです。石油輸入元の多角化は重要ですが、シベリアの石油を中国に横取りされると困るとか、けしからんといった短絡的議論は意味がないと思います。
Q: 先日この番組でも、カナダのオイルサンド開発と日本への輸入の可能性についての話題がありましたが・・・。
(新井) そういったものも含めて、幅広い選択肢の中から安く安定的な供給元を選ぶことが重要であり、国家と国家のメンツといった問題ではないということです。最後に、少し違う視点についても触れてみたいと思います。地域レベルでの経済協力という視点です。隣国ロシアのシベリア・極東地域が経済発展すること自体、日本にとっても有意義なことです。環日本海経済研究所がある新潟でも、パイプライン建設に関連したビジネスチャンスに対する期待がありますし、将来的にはロシア産の石油製品の備蓄拠点、流通拠点を日本海側に整備すべきだとの意見もあります。北東アジア全体で相互利益になるエネルギー安全保障の視点とあわせて、日本海側と対岸のロシア極東地域という地域レベルでの経済協力の視点と、両方を組み合わせて考えていくことが重要だと思います。
Q: どうもありがとうございました。